5月17日の「東京新聞」朝刊1面は「残業で不正手続き ワタミ過労死 労使協定 形だけ」という見出しで、入社2ヵ月後に過労自殺した森美菜さん(26歳)の事件に関して、ワタミでは三六協定を違法な手続きで結んでいる疑いがあること報じています。また同日の社会面ではその詳報で「労働条件 言うがまま 協定 店長指示でバイトが署名」と伝えています。どちらの記事も大きな反響を呼び、若者の過労死・過労自殺に対する世論の関心の高さを示しています。
労基法によって、使用者が労働者に命ずることのできる最長労働時間は1週40時間、1日8時間となっています。しかし、同法の第36条にもとづいて、使用者(会社)は労働者の過半数を組織する労働組合など協定を結び、労基署に届け出れば、時間外および休日に何時間働かせても処罰を免れることができることになっています。労基法はこういう抜け道がある点で「笊(ざる)法」になっているのです。
三六協定は労基法36条にしたがって適正に結ばれなければなりません。過半数労働組合のない企業でも、労働者側の過半数代表は、全員の投票や全員集会などによって適正に選ばれる必要があります。ところが、労働働政策研究・研修機構の実態調査などから推定すれば、三六協定の労働者側の過半数代表の大半の企業で、選挙以外の方法で決まっており、その半数近くは親睦会が代行する、あるいは会社側か会社の労務担当者の指名で決まっていると考えられます。
厚生労働省は、近年では三六協定で認められる労働時間の延長の限度を、1週15時間、1ヵ月45時間、1年360時間などとしてきました。しかし、これは法的拘束力のない行政上の指導基準にすぎません。そのうえ、三六協定の一般条項についてはこの指導基準に従っていても、たいていの会社の協定には、ただし書きで1ヵ月100時間、年間1000時間といった延長も認めるような「特別条項」が盛り込まれています。労働局・労基署の過重労働対策では月100時間、2〜6ヵ月の平均80時間以上の残業は過労死・過労自殺を引き起こすリスクが大きいとされていますが、許せないのは、このような過労死ラインを超える労働時間を認める三六協定を、労基署が突き返さずに受理しているという事実です。
吹上元康さんが新卒入社4ヵ月で過労死させられた日本海庄やを経営する大庄は、三六協定の特別条項における延長時間を月100時間、年750時間としていました。これは『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』にも書きましたが、大庄が自己弁明のために大阪高裁に持ち出した他社比較表によれば、ベーカリーカフェのモンタボーを経営しているスイートスタイルは、月135時間・年1080時間、ワタミフードサービスは月120時間・年950時間というように、軒並み過労死ラインをはるかに超える時間外労働を認める特別条項を盛り込んだ協定を届け出ています。ほかに外食産業で月80時間から100時間、年600時間から870時間の延長を認める特別条項付きの三六協定を届け出ている会社には、バケット、クリエイツ・レストランツ、サンマルクカフェ、KID‘S、つばめ、レインズインターナショナル、くらコーポレーションなどがあります。
こうして比較するとワタミだけが三六協定の延長時間だけが特別に長いのではないことが分かります。総勢15名を超える日本経団連の会長、副会長に名を連ねる有名大企業の大半も大同小異です。
東京新聞の三六協定問題についての続報が待たれます。