森田成也・大屋定春・中村好孝・荒井田智幸訳、作品社、2012年
『週刊エコノミスト』2012年4月24日
「資本」の動きから解明した金融危機の真因
08年9月のリーマンショックを引き金とする21世紀グローバル恐慌の勃発から3年半が経過した。本書は、アメリカでも、日本でも、ヨーロッパでも、依然として本格的回復軌道に乗れないでいるこの恐慌が、どのようにして発生したかを考察した歴史に残る秀作である。
著者は本書に先立って、『〈資本論〉入門』(11年)を著して、世界的にマルクス・ブームを巻き起こした。その前の『新自由主義』(07年)では、資本が支配権を奪い返した30年を描いて読書人を唸らせた。
本書もまたマルクスが『資本論』で究明した〈資本〉を主題にしているが、その課題は、時間と空間の両面で世界を不断に作り替えながら、複利的蓄積の果てに恐慌に導く〈資本という運動体〉の〈謎めいた秘密〉を解き明かすことにある。
資本主義の時間的発展と空間的編成に関する著者の考察は、精緻を極める。その広がりは得意の経済地理学の領域にとどまらず、技術と組織形態、社会関係、社会制度、労働過程、自然関係、日常生活、そして世界観に及ぶ。それにもかかわらず、〈資本〉を主題に据えた論理は、次のように単純明快である。
今回の金融危機の直接の原因は、サブプライムローン(低所得者向け住宅貸付)の膨張とその証券化にあるが、より根底的な問題は、新自由主義が資本の権力を復活させ強固にした結果、労働に対して資本が力を持ちすぎ、その帰結として賃金の抑制が続いたことである。これが資本蓄積に伴い累進的に拡大する生産能力に対する需要の不足を招いた。
アメリカでは過剰生産の表面化は、信用の膨張に煽られた消費主義によって先送りされたが、結局は、企業の過剰供給に対して需要不足を引き起こさずにはおかなかった。
80年代以来働く人びとを苦しめてきた諸困難は、持続的資本蓄積が限界に直面していることを示している。世界中で膨大な数の人びとが絶望的貧困のもとにおかれ、環境悪化が急激に進行し、人間の尊厳が至るところで侵害されている。
ではわれわれは何をなすべきか。この過程を終わりにするには〈もう一つの世界〉を志向する反資本主義運動の諸潮流が合流しなければならない。資本はその権力を自ら進んで放棄しはしない。それは奪い取られなければならない。
「世界の経済書ベスト5」(ガーディアン紙)に入るほど広く読まれている本書の真価は、あまりに資本が強く、労働者が弱すぎるこの国で読まれてこそ確かめられる。