第189回 野田政権は全労働者をもっと非正規化してもっと搾取します

7月31日、野田内閣の「国家戦略会議」が策定した「日本再生戦略」が閣議決定されました。

長くてもあと1年とは続かない野田政権が2020年度までの長期的な経済運営方針を示したこの文書(以下「戦略」)には、「フロンティア」あるいは「フロンティア国家」という飾り文句がちりばめられています。

フロンティアはアメリカ史によく出てくる、辺境(開拓地と未開拓地の境界地帯)を意味する言葉です。産業や学術の最先端という意味でも使われます。とすれば、「戦略」は、<日本は産業の未開拓分野を切り開き、経済成長の最先端に立つ国にならなければならない>とでも言いたいのでしょう。ここからは<国民の生活が第一>という公約を投げ捨てて、<財界のための経済成長が第一>という看板に書き換えました、というメッセージが聞こえてきます。これが総選挙直前のマニフェストのような文書であるなら、民主党の大敗は目に見えています。

「戦略」は、消費増税とのつじつま合わせから、2020年度までの年度平均で、名目成長率3%程度、実質成長率2%程度を目指すといいます。しかし、戦後の成長率は、高度成長期(1956〜73年度)9.1%、第一次オイルショック後の低成長期(1974〜1990年度)4.2%、バブル崩壊後の長期不況期(1991〜2010年度)0.9%と順次下がってきました。

経済発展が一定の成熟段階に達するにつれて、成長率が低下し、やがて横這い状態になることは、景気循環の波を越えてどの先進国にもほぼ共通に見られる現象であり、ある意味では経済発展の普遍的法則だと言えます。にもかかわらず、20年度までずっと名目3%、実質2%の成長を目指すというのは、現実無視の極みです。

30代半ば以上の人は、消費税率の3%から5%への引き上げと金融危機で経済ががたがたになった1990年代末に、自民党小渕政権の「経済戦略会議」が「日本経済再生への戦略」を打ち出したことを覚えているでしょう。今度の「戦略」は名称だけでなく、内容においても、小渕政権時代に出た戦略とそっくりです。

小渕政権の戦略は、<従来の過度に公平や平等を重視する日本社会を、株主重視の効率と格差を重視する社会に変えて行かねばならない>としていましたが、その路線によって出現したのはアメリカ型の格差社会=貧困社会でした。

今回の「戦略」は、雇用の創出については多言を費やしていますが、雇用の質に関しては次の一箇所を除いてほとんど触れていません。「戦略」がめずらしく雇用の劣化について言及しているのは以下の一箇所です。

グローバル化による海外の安い労働力との競争やICT 化による定型業務の減少等が進み、産業構造が転換する中で、年収200 万円以下の低所得者層が増加するとともに、非正規雇用が雇用者の3割を超え、不安定雇用が増加した結果、これまでのように働くことを通じて暮らしが上向くイメージが描きにくくなっている。このような中で、我が国を支えてきた中間層や若者に不安が広がり、格差の拡大、さらには全般的な貧困化が懸念されている」(51ページ)。

 しかし、「戦略」は、だから非正規雇用を減らしたり、非正規雇用の拡大にストップをかけたりする必要があると言っているのではありません。「戦略」が「非正規雇用と正規雇用の枠を超え、仕事の価値に見合った公正な処遇の確保に向けた雇用の在り方の実現を目指す」と言うときの真意は、正規と非正規の垣根をなくし、将来的ににはすべての労働者を非正規にしていくということです。

そのことは「日本経済再生戦略」のキーワードと同じ名称の国家戦略会議の「フロンティア分科会」の報告を見てみるとよくわかります。そこには、「人生で2〜3回程度転職することが普通になる社会」、「有期を基本とした雇用」、「有期の雇用契約を通じた労働移転の円滑化」、「何度も異なった職業に就く」と言った言葉が踊っています。これはつまり全労働者を有期契約の非正規労働者にするということです。

「フロンティア分科会」に置かれた「繁栄のフロンティア」部会報告書のサブタイトルは、「未来を搾取する社会から未来に投資する社会へ」となっています。この言い回しを借りるなら、「戦略」は、<全労働者を非正規化してもっと搾取する社会>を目指したものだと言わざるをえません。(次回につづく)。

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