第215回 原発暴走を許した日本の政治経済システム–原発、過労死、貧困の根源にあるもの

この拙文は、3.11から2周年を記念して3月16・17日に福島市で行われるシンポジウム(基礎経済科学研究所主催)で報告するために書かれました。リンクした原発関連の年表とともに参照してください。

同報告では1970年代に焦点を合わせて、労働組合運動の企業主義的再編と電力業界における企業・労組一体の原発推進体制構築の経緯を考察します。そのうえで、ストライキの多発と革新自治体の高揚があった1970年代の資本と労働のせめぎ合いが1975年を境に労働の敗北に終わったことが、その後、日本が原発大国、過労死大国、さらには貧困大国に突き進む一大要因となったことを明らかにしたいと思っています。

戦後のストライキ統計を概観すると、スト件数は高度成長が本格化した1960年代初めから増加を続け、第1次オイルショックでハイパーインフレが起きた1973年から1974年にかけてピークに達しました。しかし、75年のスト権ストの敗北以降、財界の主導による労働組合運動の企業主義的統合が加速し、1980年代後半から1990年代にかけては、大企業の労働組合はスト権をほとんど、というよりまったく行使できなくなるまでに労働に対する資本の専制が強まりました。

そのために「労働力調査」でみれば、労働時間は、60年代初めから70年代前半まで減少してきたにもかかわらず、1970年代半ばから増勢に転じ、1980年代末には週60時間以上の労働者が男女計で777万人、男性では4人に1人を占めるまでなりました。その結果、過労死が多発するようになり、1988年の「過労死110番」のスタートを機に、「過労死」が誰でも口にする現代用語になりました。他方で低時給・有期雇用・短時間の女性パートタイム労働者を中心に非正規労働者が急増してきた結果、男女計の平均労働時間はずいぶん短くなってきましたが、男性正社員は相変わらずの働きすぎで、週ベースでは50時間、年間ベースでは2700時間余り働いています。そのうえ、非正規労働者が増加した結果、正社員の賃金も下がって、いまでは働きすぎと貧困が併存するようになってきました。これも日本の労働社会がストライキのない社会という意味で特異な「ストレス社会」になってきた結果といえます。

原発関連略年表(拡大すると見やすい)に示したように、1970年代は全国的に革新自治体の高揚期でした。京都では蜷川府政(1950-78)が続いていましたが、横浜で飛鳥田市政(1963-77)、東京で美濃部都政(1967-79)、大阪で黒田府政(1971- 79)、沖縄で屋良県政(1968-76、復帰前の公選行政主席を含む)が誕生し、70年代にはTOKYOの革新首長がそろい踏みする状況が出現しました。しかし、経済界も政府(自治省)もこれを脅威とみて、革新自治体潰しのためのTOKYO作戦に乗り出したことが知られています。この作戦は79年の都知事選で鈴木都政(自公民新自ク推薦)になったことで成果をあげました。しかし、この時期に革新自治体が次々と消えていった要因としては、労働戦線の右傾化が進み、革新統一の政治的基盤が崩れたことのほうが大きいと言えます。それは、これ以降、自治体選挙では共産党を除くオール与党陣営が多数を制する事実上の無風選挙が広がっていったことから明らかです。

また1970年代に入ると原発の着工と運転が本格化しました。東電福島第一原発も第二原発も、1970年代に着工と運転開始が集中しています。その多くは東芝を主契約者としていました。東芝社長であった石坂泰三氏は、原発技術立国のために科学技術庁が設置された1956年に経団連会長に就任しています。同じく東芝会長であった土光敏夫氏は、1974年に経団連会長に就任し、以降、2期6年にわたってオイルショック不況後の原発推進によるエネルギー転換の旗振り役を演じました。その後、1976年に東電社長に就任した平岩外四氏は、経済審議会会長や産業構造審議会会長を歴任し、1990年から1994年に経団連会長を務めています。

東電労組書記長から同委員長になった笹森清は、1997年に連合事務局長になり、2001年から2005年まで連合会長に就任しました。電機・電力などの原子力関係労働組合は1970年代の半ばから、原発推進の立場から研究会や懇談会を発足させ、電力労連は1980年の大会で原子力発電推進方針を採択しています。電力総連大会が3.11直後に、原発再稼働に向けて組織をあげて取り組むことを決定したことはわたしたちの記憶に新しいところです。

3.17の報告では、以上の諸点を掘り下げて、過労死が跡を絶たない、雇用の非正規化が止まらない、賃金が下がり続ける、貧困が拡大するといった今日の日本社会に生じている事態は、その根源において原発の暴走を許してきた事態と軌を一にしていることを検証するつもりです。

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