第二次安倍内閣は、消費税率の引き上げ強行、TPP交渉参加、原発再稼働など、どこからみてもアブノーマルなアブナイ内閣です。それを証明するように、安倍首相は、今年4月17日、自らが議長である産業競争力会議で、アブナイミクスの第三の矢の投資戦略として、「国家戦略特区」を創設し、国内外のヒト・モノ・カネを呼び込み、経済再生の起爆剤にする構想を打ち出しました。その特区は、東京・大阪・愛知の三大都市圏を中心に全国数カ所に設置し、法人税率の引き下げ、外国人医師の受け入れ、海外トップクラスの学校誘致、カジノ・リゾートの設置、都営交通の24時間運行などを看板に、外資誘致を図るというものです。
これらの看板はすべて規制緩和を前提にしています。なかでも「聖域なき規制緩和」で際立っているのが雇用・労働の規制緩和です。それを証明するように、本年7月17日に行われた有識者等からの「集中ヒアリング」では、大内伸哉氏(神戸大学大学院法学研究科教授)が、「国家戦略特区ワーキングブループの雇用・労働法制の規制改革」の柱について提案しています。
そのレジュメの全文は、内閣府・産業競争力会議ホームページの下記pdfに出ています。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_y/ouchi.pdf
ASU-NETの理事でもあるPOSSEの川村遼平さんがそれを簡単に以下の12項目に整理してくれているのでここに紹介します。
1. 解雇規制のガイドライン策定(明示した解雇ルールに適合した解雇の弾力化)
2. 不当解雇の金銭解決(不当だが悪質性のない解雇は金銭解決を認める)
3. 労働契約法16条の適用除外(試用期間中は解雇規制を外す)
4. 労働契約法16条の適用除外(零細企業は解雇規制を外す)
5. 雇い止めの金銭解決(解雇の場合と同様に金銭解決を認める)
6. 労働契約法18条の見直し(無期転換放棄条項の有効化)
7. ホワイトカラーエグゼンプションの導入(労働時間規制の除外労働者を拡大)
8. 裁量労働制の手続き要件緩和(要件が厳格すぎるので抜本的な見直しが必要)
9. 労働時間の規制の見直し(労働時間の上限規制を緩和、違反に対する制裁の見直し)
10. 個別合意における適用除外(デロゲーション、法律で定めた権利の放棄)
11. 労働者派遣法の理念の再検討(労働者保護から労働需給のマッチングへ)
12. 賃金政策の再検討(貧困対策としての最低賃金引き上げの政策的適切性の見直し)
9項目目についていうと、現行の1週40時間、1日8時間という法定労働時間は、労使の時間外労働協定(36協定)の締結と届け出を条件に、労働時間の上限規制としては死文化していて、残業手当の支払い基準の意味しか持っていません。にもかかわらず労働時間の上限規制をこれ以上どのように緩和するというのでしょうか。
大内氏は、労働時間の上限規制よりも、勤務間インターバル、休日労働の原則禁止による週休の確保、年次有給休暇の取得方法の見直しなどを行うべきだと言います。また、「長時間労働による健康障害は大きな問題ではあるが,現行の法規制は実効性に問題あり。労働時間規制の水準を真の意味での最低基準に引き下げて実効性を確保すべきである」とも言います。
ここには過労死問題についての認識はありません。「労働時間規制の水準を真の意味での最低基準に引き下げる」というのはわかりにくい表現ですが、大内氏はいまの「1週40時間、1日8時間」では使用者は厳しすぎて守りようがないので、たとえば「1週50時間、1日10時間」程度の使用者が守りうる基準に引き下げるべきだとでも言いたいのでしょうか。
警戒すべきことに、労働時間に限らずここに大内氏が提案しているような雇用・労働の規制緩和の影響は、特区のなかに限られません。安部首相は、政権復帰以来、日本を「世界で企業が一番活動しやすい国」にすることを標榜してきました。「国家戦略特区構想」はそのパイロットモデル、あるいはずばり突破口ともいうべきものです。
日本の大企業は、長年にわたって労働者の賃金を抑え、低迷する国内消費を尻目に、企業活動のグローバル化に邁進してきました。その大路線を賃上げ=個人消費拡大の方向に転換しないまま、外国の企業と資本の日本への誘致を図るためには、労働条件を新興国レベルの最低水準に引き下げる規制緩和が必要だ、というのがこのたびの国家戦略特区構想の狙いだと言わなければなりません。