最近あちこちに書いているように、1988年の「過労死110番全国ネット」のスタートから四半世紀が経ちましたが、過労死は、若い年代の労働者に広がる過労自殺(自死)を含めると、減るどころではありません。近年では、過労とストレスに起因するうつ病などのメンタルヘルス障害や、職場におけるいじめ・嫌がらせなどの精神的ハラスメントも深刻化する一方です。
過労死110番には、夫を亡くした妻、妻を亡くした夫、息子や娘を失った父母、父を失った子どもなどから相談が寄せられてきました。過労死の不安を抱くか一命を取り留めた本人からからの相談もありますが、労働組合からの相談はわずかしかありません。なかでも初期の110番では、夫を過労死で亡くした妻からの相談が多いという特徴がありましたが、最近では息子や娘の過労による精神疾患や自殺についての親からの相談が多くなっています。
いまでは、夫を過労死で亡くした妻で、子どもがいる人は、母として息子や娘が過労死や過労自殺をしないかと不安に思っています。2か月前に出た拙著『過労死は何を告発しているか――現代日本の企業と労働』(岩波現代文庫)を献本するために、過労死した夫の働き方について貴重な資料をいただいた方にメールで現住所を問い合わせました。
その返信のメールに添えられた手紙には、夫が亡くなったときに1歳だった息子さんも26歳になって、いまは大学院を出て働いていると前置きしたうえで、「子どもが過労死しないかと心配しなければならない現実」を嘆き、「私は息子に、仕事頑張ってと言ったことはありません。とにかく、無理はするな、上司と組合に仕事量を知っておいてもらえ、適当に手を抜いていいからと言っています」と書かれていました。
私は小豆島を第二の故郷としています。この島を舞台にした『二十四の瞳』(壺井栄原作、木下恵介監督)の大石先生は、教え子が戦争にとられて死地に赴くことを嘆いて学校を辞めます。大石先生には、大吉という息子がいました。戦死した父親を誇りに思っている大吉があるとき「自分も戦争に行く」、そうすればお母さんは「靖国の母」になれると言います。すると、大石先生は息子に、おまえはお母さんを靖国の妻だけでなく、靖国の母にしたいのか。「お母さんは大吉にただの人間になってもらいたい。命を大事にする普通の人間にな」と諭します。
『二十四の瞳』のこの大石先生の願いは、夫を過労死で亡くした妻である母親の、働く息子に対する「命を大事にする普通の人間として働いてほしい」という願いに通じていると思います。過労自殺を含む過労死が若者に広がっている昨今では、多くの親たちが息子や娘の苛酷な働き方に不安を覚え、心を痛めています。
それだけに、企業戦士の戦死ともいうべき過労死は1日も早くなくさなければなりません。そのためにもこの秋の臨時国会で日程に上っている過労死防止基本法の制定を、超党派の議員立法で1日も早く実現したいものです。
(過労死防止基本法制定実行委員会「第7号ニュース」の拙稿を改稿しました。)