家族の1人が、仕事先で古い「読売新聞」読者欄に載ったソフト開発会社の社員の投書を見つけてきました。情報産業でソフトウエアの開発に携わるSEやプログラマーの職場は、今でも過労死と過労自殺がきわだって多いことで知られています。富士通SSLという会社で働いていた西垣和哉さんは、仕事が集中した時期は1日平均12時間労働が1か月続き、翌晩10時までの37時間連続勤務もあったような過重労働のなかで、2006年冬、27歳で亡くなりました。この事件を担当した川人博弁護士は、労災認定勝利のパンフレットのなかで次のように述べています。
「SEとは、system engineer(システムエンジニア)の略語のはずだが、私には、slave engineer(スレイブエンジニア=奴隷技術者)の略語のように聞こえてしまう。
本来、SEは、21世紀を担う技術者であるはずなのに、残念なことに、現代日本では、過重労働の代名詞となり、最も過酷な労働に従事している職種となっている。
いわゆるIT革命は、労働現場にSEという新たな技術労働者を大量に生み出したが、彼らの労働条件に関する規制がほとんど行われず、長時間労働、劣悪な労働環境が野放しとなり、結果として、多くの職場で過労死・過労自殺、そしてうつ病などの様々な疾患が発生している」。
そこで冒頭の投書にもどると、こう書いています。
人間疎外を生むソフト開発職場 会社員・匿名希望 31歳
「今や事務器機からゲームまでコンピューター時代。そこでなくてはならないのがプログラマー。今、その職場では何が起きているのか。私どもの会社では、独自に汎用の「OAソフト」や数値変換工作機械の「テープ作成ソフト」など、多くのアプリケーションソフトを開発中である。時代の最先端をいく華やかさの裏で、プログラマーたちは、ソフトウエア開発に追われ、長時間労働と深夜作業の連続。それでもノルマをこなせない状態が続いている。
男性は徹夜続きでふろにも入れず、よごれた服を着て青い顔をしている。不満のはけ口もなくぶつぶつ独り言を言ったり、突然仕事に出てこなくなったり、精神も肉体もぼろぼろ。どうにかなってしまうのではと思える人がたくさんいる。
機械に使われる人間、異常とも思える人間疎外の生活。職場の雰囲気は殺伐としている。私もそんな中で働く1人だ。コンピューター職場での作業管理について、今ほど法の整備が急がれるときはないように思う」。(茨木市)
これはいつ書かれたと思いますか。なんとインターネットが普及するよりずっと以前の、今から30年も前の1984年4月5日付けの投稿記事なのです。今、「過労死防止基本法」(仮称)の制定運動が大詰めを迎え、早ければ今通常国会で厚生労働委員会が審議入りをする3月に、超党派の議員立法によって成立するかもという期待が高まっています。過重労働は情報産業に限られたことではありません。日本の企業に蔓延する異常なまでの人間疎外と人間破壊を生む過重労働を防止するためにも、それこそ法の整備が急がれます。