第37回 集中講義? 日本経済を襲う08恐慌と政治の責任

前回までの5回の集中講義で見てきたアメリカと同様に、現下の日本経済も「2008年恐慌」と名づけるしかないような危機的状況にあります。

消費不振による販売の落ち込みがとくに深刻なのは自動車産業です。日本自動車販売協会連合会(自販連)の発表によれば、11月の新車販売台数(軽自動車を除く)は、前年同月比27.3%減の21万5783台で、11月としては1968年の統計開始以来、最大の下落率となりました。また、台数でも69年11月以来、39年ぶりの低水準に落ち込み、ピークだったバブル期の89年11月の約4割にとどまりました(「中日新聞」08/12/02)。
 
自動車業界は、販売の大幅な落ち込みのなかで、派遣をはじめとする非正規雇用者の削減をすさまじい勢いで進めています。共同通信の集計によれば、日本の自動車・トラック大手12社は、08年度に世界全体で合計190万台規模の減産に踏み切り、国内の工場で働く非正規従業員を1万4000人以上削減することになっています(「東京新聞」08/12/01)。

削減はこの規模にとどまるとは考えられません。日産は、上記の報道では非正規従業員2000人のうち4分の3の1500人を削減するとなっていましたが、12月17日には、来年3月末までに非正規全員を解雇すると発表しました。

人員削減は他の産業にも広がっています。厚生労働省の調査結果を報じた「毎日新聞」(08/11/28夕刊)によると、本年10月から来年3月末までに雇い止めになる非正規雇用者は3万人を超えるとみられています。日本経済新聞社が12月4日までに集計した主要製造業38社の派遣・期間従業員の削減数は2万1000人に達しています(「日本経済新聞」08/12/05)。

人員削減の波は、正社員をも襲っています。ソニーは全世界で1万6000人ものリストラを行うと発表していますが、削減の半分は正社員とされています。これが強行されれば国内の正社員の大幅な削減も避けられません。深刻な販売不振に見舞われている不動産業界や建設業界をはじめとして、多くの産業で正社員の大規模なリストラが始まっています。中小企業の業況の悪化は大企業以上に深刻です。

今回の生産や雇用の変動がこれまでの景気後退と異なるのは、落ち込みの規模が大きく、速度が急激なことです。その理由は、戦後の日本経済にビルトインされてきた景気変動に対する一連の安定装置が大きく壊されてきたという事情にあります。

第1の壊された安定装置は正規雇用比率です。「労働力調査」などによれば、役員を除く全雇用者中の非正規雇用者の割合は1980年代半ばには15%でしたが、現在は35%になっています。このことは企業がかつてに比べて乱暴かつ容易に人員削減ができるようになったことを意味します。

第2の壊された安定装置は労働組合です。組合の組織率は1980年代の前半はまだ30%前後ありましたが、現在では18%まで落ち、雇用を確保したり、賃金を維持あるいは引き上げしたりする力もそれだけ弱くなりました。

第3の壊された安定装置は国民の生活保障のための公的な仕組みです。社会保障が抑制・削減されてきただけでなく、雇用の変容に対応したセイフティネットの整備が放置されてきたために、雇用保険をはじめ各種の社会保険の適用を受けられない非正規労働者が多数います。

これらにかぎらず、戦後の経済に備わってきた各種の激変緩和装置は、この20年余りのあいだに、経済活動のグローバル化と、新自由主義政策にもとづく労働の規制緩和によって大きく破壊されてきました。だからといって、仕方がないというのではありません。

グローバリゼーションの波は世界的な流れですが、その対応は国によって一様ではありません。世界の先進国のなかには、政府が企業を規制してグローバリゼーションの猛威から労働者の雇用や福祉を守ろうとしてきた国もあります。ところが、アメリカや日本は、政府が企業の要求を受け入れて、万事市場任せの新自由主義の政策を採用し、雇用の非正規化や社会保障の削減を進めてきたことによって、恐慌への備えを壊してきたといえます。その点で政治の責任は重大です。

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