9月15日、労働政策審議会労働条件分科会(以下、労政審)は、厚労相から諮問のあった労働時間制度改革にかかわる「働き方改革法案要綱」について、「おおむね妥当」と答申しました。それを受けて、政府は、他の分科会ですでに答申されていた「同一労働同一賃金」などの関連法案と合わせて、働き方改革関連法案を9月下旬に召集される臨時国会に一括提出し、来年4月の施行する方針を打ち出しました。
しかし、臨時国会冒頭での突然の国会解散と、総選挙を目前にした政界再編で、法案の上程と審議入りは来年1月以降にずれ込むものと予想されます。こまかく言うと、法案は、前回述べたように、?一定の労働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。?労使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、?過労死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。さきの労政審では、2015年4月に上程されながら審議入りができずにいた?と?をいったん取り下げて、?と一緒にしてあらためて上程する予定になっていました。詳細はわかりませんが、もし、??の取り下げをしていないまま解散になったのなら、??は廃案になって、出直しということになります。しかし、??が取り下げられていたのなら、???はいずれも、まだ上程されていないことになります。いずれにせよ、「働き方改革法案」は「御破算で願いましては」の状態になっています。
今回の国会解散は「党利党略解散」とか、「モリカケ隠し解散」とか言われています。安倍首相は北朝鮮のミサイルと核の脅威に乗じて、昔の中国侵略を鼓舞する歌の題名を援用し「“国難突破”解散」といきり立ってみせています。ネットで調べると、すでに使われていて私のオリジナルではありませんが、私は今回の解散を「ちゃぶ台返し解散」と呼びたいと思います。ちゃぶ台返しは、映画「若者たち」(1966年テレビ、67年映画)で長男役の田中邦衛がよくやりました。アニメ「巨人の星」の父親の星一徹の得意芸でもあります。
この「ちゃぶ台返し」は、安倍内閣の支持率の低下を招いたモリカケ疑惑を一掃はできないまでも場面転換するうえで有効かもしれません。しかし、激高して見せて冷却を図るこの手法は、政府サイドにとって大きなリスクもあります。それは審議入りしていた法案や準備されていた法案をいったん御破算にしてしまうからです。これを再び動かすには相当のエネルギーを要します。反対が強い法案であれば、世論工作のやり直しも必要です。
報道によると、自民党は選挙公約の柱として「人づくり革命」、「憲法改正」、「アベノミクスの加速」、「働き方改革」、「北朝鮮への対応」などを掲げるようです。「働き方改革」では、長時間労働の是正や非正規雇用の処遇改善などを唱えるのでしょうが、批判の強い高プロ制(残業代ゼロ法案)を争点にすることは避けるのではないかと思います。公明党も与党としては自民党と大きくは違わないでしょう。
希望の党は、「寛容な改革保守政党」を目指すと言いながら、「安保法制(戦争法)容認」「憲法改正」では自民党と変わりません。雇用・労働政策については公約に掲げていないようですが、自民補完勢力として、安倍内閣の進める「働き方改革」のあと押しをするものと考えられます。維新は閣外与党としてアベノミクスの「働き方改革」を推進する立場にあります。
希望の党に移らなかった前民進党議員が結集する「立憲民主党」は、連合の支持を取り付けるためにも、働き方改革の高プロ制には反対するものと期待されます。共産党や社民党が働き方改革法案に反対している点はこれまでと変わりません。
選挙は蓋を開けてみないとわかりませんが、自民党が過半数を割るか大きく議席を減らす可能性もあります。そうなると、与党の公明党はもちろん、補完勢力の維新や希望の党の出番です。たとえ自暴自棄ならぬ自公維希の大連立が成立しても、選挙後すぐに「働き方改革法案」が上程され審議入りするという運びにはならないでしょう。しかし、自民党が圧勝すると、いったん御破算になった法案がたちまち息を吹き返して強行されることもありえます。
そうさせない情勢を切り開くことができるかどうかは、共産・社民・立憲民主・無所属リベラルの野党共闘がどれだけ議席を伸ばせるかにかかっています。咋日(10月1日)、「市民連合高槻・島本」は、全体会議を開き、今回の総選挙では、大阪10区で立候補される辻元清美さんを推薦することを決めました。私も呼びかけ人のひとりとして出席していましたが、市民連合と辻元候補の間で合意された政策のなかには、残業代ゼロなどの「働き方改革」に反対することも盛り込まれています。維新と自民党を相手に当選を勝ち取ることは容易ではありません。しかし、市民連合+野党共闘の力をもってすれば、勝機は十分にあります。全国で短期間にこういうかたちが広がれば、働かせ方改悪法案を潰す展望も生まれてくるでしょう。