第237回 伊藤忠の新しい勤務態勢は質の悪いブラックジョークです。

今年8月初めに発表され、10月1日から実施された伊藤忠商事の新しい勤務態勢が話題を呼んでいます。

同社ホームページと新聞報道によると、その概要は以下のようになっています。

1)深夜勤務(午後10時−午前5時)は、従来の「原則禁止」から「禁止」とし、午後10時には「完全消灯」、午後8時以降の勤務を「原則」禁止とする。

2)午前5時から9時までの早出による残業時間帯を設け、その間の時間外手当の割増率を従来の25%から深夜勤並みの50%に引き上げる。

3)午前8時より前に仕事を始めた社員には、バナナやヨーグルトなどの軽食を無償で支給する。

会社はこれを「社員の健康管理や効率的業務推進の観点」からの残業削減措置とみなして、「深夜の残業は、社員の疲労に加え、終了時間の区切りがないためどうしても非効率なものになりがちです。早朝時間帯であれば心身共にすっきりしており、また始業時刻が9:00と決まっているため、限られた時間の中でより効率的な業務が可能と考えています」と言います。

無制限に残業をさせておいて「深夜の残業は終了時間に区切りがない」と言うのは理解に苦しみます。「始業時刻が9時と決まっている」はずなのに、それよりずっと早い時刻から仕事が始まるというのも奇妙な話です。新しいシフトでは早朝時間帯に早出残業をしても、午前5時から午後8時まで拘束15時間勤務があるうるとすれば、たとえ午前中は「すっきり」していても、午後は疲れて能率が落ちると考えられます。

伊藤忠のHPでは、新しい勤務態勢は来年年3月末までの時限措置とし、半年間後に継続の可否を判断するとされていますが、時限的にテストしてみるまでもなく、見直しを迫られることは目に見えています。

首都圏では通勤に平均で片道1時間くらい要します。片道2時間という人も少なくありません。そういう遠距離通勤者は早朝5時に出社しようとすれば、家を午前3時か4時には出なければなりません。すると午前2時か3時には起床しなければなりません。そもそも、午前3時台や4時台には電車は動いていません。日本の会社には「這ってでも来い」という言葉がありますが、「会社の近くのホテルに泊まれ」、あるいは「タクシーで来い」とでも言うのでしょうか。

早朝型勤務によって、会社は「家庭や子どもを持つ女性も働きやすくなる」と言います。しかし、新しいシフトは家庭生活や学校教育の時間帯と衝突します。早朝勤務に就くには保育所が開かない時間帯に出勤しなければなりません。5時、6時というとたいていの小中学生はまだ寝ている時間です。この子らは親が早朝出勤したあと登校するまでは鍵っ子になるほかはありません。それとも子どもを持つ女性社員は早出はしなくていいとでもいうのでしょうか。

8時前に仕事を始めた社員には「バナナやヨーグルトなどの朝食」が出ると言いますが、これは家で朝食を取ることが困難なほど早い時間に出社せよということでしょうか。その程度の軽食で昼食まで働けというのでしょうか。ここには従業員に対する健康配慮のかけらもありません。  

伊藤忠の1人当たり平均残業時間は月37時間と言います。これは残業時間が短い一般職の女性社員を含む平均で、男性正社員に限ると。月50時間を超えると考えられます。ネットの「My News Japan] に2009年8月の日付で伊藤忠社員の働き方の記事が出ています。そこには新入社員について「夜は遅く朝は早い」「出社は朝の7時半が当り前」「16時間拘束も普通」と書かれています。

4年前に「出社は朝の7時半が当り前」だったとすれば、朝型勤務はこの10月から導入されたものではありません。今回の措置は一部既成事実化していた朝型勤務を制度化したものとも言えます。

1日15時間も働かせるようなブッラク企業が厳しい批判を浴びています。今回の勤務時間帯の変更は、伊藤忠がブラック企業であることを自ら宣言したようなものです。でなければ、あまりにも質の悪いブラックジョークです。

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