育児支援で注目すべき制度改善をした韓国と日本を比較して
□韓国で10月から配偶者出産休暇制を大幅改善
韓国は10月から、「男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律」の改正により、夫が有給で休暇をとる独自の「配偶者出産休暇」を大幅に改善しました。出産から30日以内に、従来は最大5日、有給3日の休暇を取得できるものであったのを、90日以内に有給10日を取得できるようにに大幅拡充されました。分割も1回認められます。これによって配偶者(妊婦)が産後養生院を出た後にも夫が休暇を使用することで短い期間ですが、夫と配偶者が共に子どもを世話することができるようになりました。この制度は、国の法律に基づく制度ですので、大企業だけでなく中小企業にも適用されます。法的には、非正規雇用労働者、派遣労働者にも区別なく適用されます。有給分の負担者は使用者です。使用者がこの休暇を与えなかった場合には「過怠金」(500万ウォン=約50万円)が定められていただけでしたが、改正法では、それに加えて、もし、使用者が配偶者出産休暇を使用したという理由で解雇など不利な処遇をした場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(=約300万円)以下の罰金を受けることになりました。※
※なお、今回の改正では「育児期労働時間短縮制度」も拡大されました。 これまで、8歳未満〔または小学校2年生以下〕の子ども(養子を含む)をもつ労働者は、育児休職と育児期労働時間短縮期間を合わせて最大1年まで使用できましたが、育児休職を1年した場合には、労働時間短縮 ができませんでした。10月からは、育児休職を使用しても育児期労働時間短縮はそのまま1年が保証され、育児休職未使用期間は育児期労働時間短縮の使用期間に加算して最大2年使用できることになりました。
韓国でも日本と類似して「男性片働き慣行」が広がっていて、上の図のように男性が育児休職を取得したり、育児期勤労時間短縮をとる比率はきわめて低い状況です。たしかにこの10年に男性の育児参加は増えてはいますが、まだまだ不十分です。こうした状況を今回の制度改善でどこまで変えることができるのか大いに注目することができます。
■配偶者の出産時期に独自の支援が不十分な日本
日本では配偶者の出産の際に、せいぜい年休を利用することが多く、独自の配偶者出産休暇制度は、公務員・大企業など例外的です。むしろ、今年春に大きな問題になったカネカなど一部企業で、妻の出産時期に休んだ男性社員に対する「遠隔地配転命令」がSNSを通じて、会社のハラスメント的労務管理として社会的に批判されました。
ところが、安倍内閣は時代錯誤の発想のまま、働く人の生活や権利を支援するどころか、企業幹部のパワハラへの厳しい対応をせず、事実上放置したまま、企業最優先の立場を改めようとしていません。とくに、韓国のように出産をめぐる労働者の困難に対して具体的な支援を実施しようとはしません。ただ、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組む「一般事業主行動計画」の策定・届出を義務付けるだけの法・政策です。こんな法律では多くの企業は本気で状況を変えようとしません。
この法律は、使用者を罰則などで強制するのではなく、企業の自発性・自主性を重視する、いわゆる「ソフト・ロー(soft law)」です。最近の労働法学界では、これを評価する傾向が強まっています(代表的な論者は荒木尚志・東大教授〔参考:荒木尚志「努力義務規定の意義と機能:労働立法を素材として」https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/torihiki_rule/doc/002_180412_shiryou2.pdf 〕。私に言わせれば、「ソフト・ロー」とは罰則や経済的制裁をできるだけ避け、使用者に「甘く」「なまぬるく」対応する法律です(それでも「労働法」と言えるのか大いに疑問)。この「ソフト・ロー」論は、経済団体や、労働法の規制緩和を進める安倍政権には歓迎される考え方です。
□日韓「働き方改革」の違いと今後の課題
韓国での新たな法規制は、文在寅大統領が大統領選挙時の公約で示し、政権発足後の「雇用政策5年ロードマップ」にも掲載していた政策実現の一つです。昨年7月の政府ブリーフィングでは「男性も最初から育児を経験する機会を享受できるように、配偶者の有給出産休暇を政府が支援する」ことが目的だと説明されていました。
日韓両国の社会は、企業間格差、男女差別、少子化、非正規雇用等の深刻な問題状況があり、共通・類似点が多かったのですが、政府が進める「働き方改革」や、それを根拠づける労働法の動向ではかなり大きな違いが目立ってきました。この「配偶者出産休暇制度」は、非正規雇用対策などと並んで、韓国が日本よりも先行することになった労働関連の法政策の一つだと思います。 今回の韓国での新制度は、育児についても男女平等での責任をもっていこうとしている点で、類似した労働環境の日本でも大いに参考にできるし、日本の実情に合わせた制度の検討や議論を広く行うことが必要です。上記の通り、日本政府は企業の努力を呼びかける微温的な対策が中心です。労働組合が高い意識性を発揮して、組合内外での議論を広め、さらに団体交渉や協約によって個別企業、できれば職種・産業単位での制度化をめざすことが考えられます。そして、それを国の制度に高める方向を目指すべきだと思います。