映画「パラサイト 半地下の家族」を見て「働き方」を考える(2) 家事労働者の労働人権保障をめざして
「パラサイト」の後半の重要人物=家事労働者
映画「パラサイト 半地下の家族」の前半では、まともな仕事に就けず、半地下で暮らすキム一家の4人が、英語教師、絵画教師、運転手、家政婦として、IT企業COEのパク一家の豪邸に入り込むというストーリーが展開されます。そして、「桃アレルギー」があり、「2人分も食べる」という中年家政婦が登場します。パク一家以前の所有者であった建築家の頃から豪邸に住み込んでいたムングァンです。キム一家の「策略」で豪邸を追い出される気の毒な女性です。しかし、印象の薄い中年の元家政婦が、後半で、あっと驚く役割を果たすことになります。演ずるのは、ポン・ジュノ監督映画への出演が多く、演技力に定評のある女優イ・ジョンウンさんです。
映画「パラサイト」で家政婦になったムングァンも、パクヨンギョ(キム一家の母)も中年女性でした。そして、ムングァンもパクヨンギョも、夫の失業や負債で家計を支えるために家政婦の仕事をすることになりました。日本では、市原悦子さん主演のドラマ「家政婦は見た!」で注目されましたが、身分的と言えるほどの貧富の格差が問題になっていたわけではありません。しかし、韓流ドラマで頻繁に描かれる「家政婦」は、富裕層家庭の豪邸で働く貧困層家庭の中年女性です。*
*家政婦の料金について、日本では日給、時給など就業時間を基にした算定がほとんどです。これに対して、韓国の場合、就業時間に加えて就業先の「坪数」(家の大きさ)が算定の要素に含まれているのが注目されます。
1 中年女性の「社会進出」が目立つ韓国
韓国統計庁によれば、50代以上の女性が無業(=専業主婦)にとどまらず、何らかの仕事をして収入を得る率(経済活動参加率)が増え続けています。2009年では50代以上女性で40.4%でしたが、2018年は45.4%まで大きく増加しました。中年女性の社会進出率が伸びたこと自体は肯定的に見ることができると思います。しかし、韓国社会の現状を見れば、肯定的な面ばかりではありません。中年女性が仕事を探す理由の第一は、生活が苦しく、何とかして収入を得て家計を補助することが目的だからです。韓国では90年代以降、子どもの大学進学率が高まり、就職や自立が遅くなりました。教育への公的支援がなく、個々の家庭で子育てに多くのお金がかかることになって親の負担が重くなったのです。日本も1980年代以降、類似の状況が強まりました。しかし、韓国は日本に比べてきわめて短期間に大きな状況変化がありました。高度経済成長時期に、ある程度労働者への富の配分があった日本に比べて、韓国では配分が不十分なまま、90年代末に経済危機が生じ、労働者家庭に負担が直撃することになった点が違っています。
その結果、一般の労働者・市民の家庭でも借金(負債)が増え、映画にも出てきたように借金を返せず、「信用不良者」になる人も多く出ることになりました。2012年の世帯当り家計負債は5450万ウォンでしたが、2018年には7531万ウォンになりました。約6年間で38.2%も上昇したことになります。その結果、2018年の借金は世帯当り平均で1億1818万ウォン(日本円で約1100万円)にも達しています〔国民日報2019年8月20日〕。そして、女性は専業主婦となって家事や育児を担当するのが、韓国社会では常識となっていましたが、多くの男性(夫)が失業や半失業(非正規職など不安定な仕事、零細自営業など)状態になる中で、家庭が負う借金返済に追われて、中年女性も家計補助目的の就業に必死にならざるを得なかったのです。
2 中年女性に多い「非公式労働」
しかし、高等教育や職業訓練の機会が少なかった中年女性たちの仕事はきわめて限られていました。韓国に行くと、小さな食堂が多いことに気がつきますが、そうした食堂の調理や給仕の仕事は中年女性が数多く働いています。また、会社や官公庁では清掃の仕事は「用役」と呼ばれる人的労働の下請形態で中年女性が働いています。これらは、いずれも不安定・低劣労働条件の仕事で、用役は「間接雇用」と呼ばれる劣悪労働の一種です。*
*「用役」は請負の中で「人的サービスの提供」を請負形式で提供する「間接雇用」です。こうした単純労働力提供の請負は、韓国では「適法請負」と考えられてきました。しかし、労働者の権利を制約する「間接雇用」形態の弊害が問題となり、労働組合や市民団体(非正規労働センターなど)は、これを「非正規職」の一種に分類しています。朴元淳・ソウル市長が正規職に転換した非正規職の3分の2(約6000人)は、ほとんどが中年女性であった用役会社に属する清掃労働者でした。
低賃金で厳しい仕事が多い中で「比較的にましと言える」仕事が、中流以上の個人家庭で働く家事や育児の仕事です。かつては「家政婦」または「乳母」、最近では「家事コンパニオン」や「マネージャー」などと呼ばれ、住込みや通いで働く仕事です。儒教思想が強かった朝鮮半島では、身分制の下での主人と召使い(下女)といった働き方があり、日本の植民地支配時代だけでなく、戦後になっても、きわめて古い感覚の働かせ方が残っていました。女性の地位向上を目指す運動を反映して「家事労働者」と呼ばれています。
3 家事労働者の法的地位
(1)家事使用人を適用除外する日韓両国の労働法
韓国で初めて勤労基準法(=日本の労働基準法に相当する法律)が制定された1953年当時、女性の地位は低いままでした。とくに、家事と育児は「労働」とは考えない意識が社会的に根強くあったのです。そうした社会意識を反映して、勤労基準法第11条1項は但書で「同居する親族だけを使う事業若しくは事業場及び家事使用人には適用しない」という文言を加えました。*
*この適用除外は、1947年制定の日本の労働基準法(第116条2項「? この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」)の規定に倣(なら)ったものと考えられます。
その結果、家事使用人は、労働者と扱われず、法的保護がない働かせ方として法の世界から排除されたのです。韓国では66年の歳月が流れた現在でも、この条項は依然として有効です。*
*労基法施行72年経過した現在の日本も家事使用人への適用除外は変わっておらず、その点では韓国と同様です。
(2)「非公式部門の労働」として広がる家事労働
家事使用人に含まれる「家政婦」は、知人や縁故によって紹介され、個別の家庭と契約を結んで働きます。ただ、日本と同様に、地域と町内を中心に小規模で運営され民間職業紹介所が契約を斡旋(あっせん)する仲介者として登場します。しかし、家政婦は勤労基準法だけでなく、他の労働関係法による労働者としての保護がなかったので労働法の世界から排除された「非公式」の就労形態になったのです。
勤労基準法制定の頃は、家族の一員のように家事業務提供と住込み(宿泊)が交換されるといった関係でしたが、その後、家事労働が社会化・市場化する状況が広がりました。家事労働は、清掃・洗濯・料理などを遂行する「家事コンパニオン」と、育児と産後料理などの業務を遂行する「育児ヘルパー」等に大きく分かれ、通いの形態が増えることになりました。法適用が明確でない非公式的就労であるために正確な規模の把握は難しい状況です*
*雇用労働部は、2017年に家事労働者数を25万人内外という推算を発表したことがあります。
いずれにしても、家事使用人には、勤労基準法が定める諸規定、例えば、休憩・休日の保障や年次休暇・退職金なども受けることができず、また、勤労基準法上の労働者でないという理由で雇用保険・産災保険(=日本の労災保険に相当)もやはり適用されることができません。*
*実際、20年近く家事労働者として働いてきたクォンさん(63)は、インタビューに応えて、呼び名が「(家事)マネージャー」と洗練された名前に変わり、「真空清掃機や食器洗浄器を使って良いという家もあり、子どもをあまり産まないので仕事もそんなに多くなく楽になった」が、問題は「報酬が低いこと」、仲介者にピンハネされる「手数料が多いこと」、「お客さんからのパワハラ」、「情報を得るのが難しいこと」などの不満を述べています〔2019年6月22日京郷新聞〕。
4 家事特別法制定の議論
(1)市民団体、女性労組などの取り組み
こうした家事使用人の劣悪な状況を改善するために、女性団体・市民団体が様々な取り組みを始めます。労働組合は韓国労総だけでなく、民主労総も製造業部門の男性正規職が中心で、女性が多い、サービス業非正規職の問題にはほとんど取り組めませんでした。
そうした中で「韓国女性労働者会」の援助を受けて「全国女性労組」が結成され、女性労働者、さらに非正規職や家事労働者の問題も取り上げるようになります。さらに、「全国家庭管理士協会」、「全国家事労働者協会」等の団体も結成されることになりました。こうした諸団体は家事労働者のための職業訓練、職業資格確立とともに、労働者として尊重され法的に保護されることを目指すことになります。そして、勤労基準法の「家事使用人適用除外」規定を廃止し、労働者としての法的保護を要求することになったのです。
この過程で韓国では、家事労働者の人権、良質の就業の実現を目的に、非営利団体(「韓国YWCA連合会」や「ウロンガクシ」)が家事サービス市場に進入したことが注目されます。また、この二団体は、教育、会員管理システムなどを整備して協同組合の形態で運営し、家事サービス分野をより専門化して一つの職業群と認められるように努力したのです。
(2)ILO家事労働者条約(189号)と家事労働者保護法
世界的には、このような家事労働者の保護が問題となり、2011年、国際労働機構(ILO)は、家事労働者の労働者性認定と、雇用上権利を保障することを求めて「家事労働者のための良質の就業協約」(189号)を採択しました。そして、多くの国で、同条約批准が国内法の整備とともに課題となったのです。韓国でも、この条約批准をめぐる取り組みが行われました。
関係団体からの訴えに対して「国家人権委員会」は、2016年、非公式部門家事労働者の労働権と社会保障権を保護するための勧告を採択し、雇用労働部長官と国会議長に、家事労働者が一般労働者と同等に労働条件を保護され、労働三権と社会保障権を保証されるように、勤労基準法改正など、家事労働者関連の法律を制定する立法的措置を勧告したのです。
こうした国内外の動きを受けて、韓国国会には、家事労働者の労働者性を認めることを含む、特別法として、家事労働者保護の法律案が提案されました。19代国会で一部議員が発議したのに続き、現在の20代国会では、政府(2017年12月)と徐炯洙・共に民主党議員(2017年6月)、李貞味・正義党議員(2017年9月)が家事特別法制定案を発議しました。法案の名前・内容で一部に違いがありますが、「家事サービス提供機関」が家事労働者との間で勤労契約(労働契約)を結んで使用者責任を負担するという基本的な規制内容は共通しています。しかし、成立させるべき法案という位置づけが政府や議員の認識度が低く、20代国会でも任期切れで廃案となるのが予想されています。
〔写真〕韓国女性労働者会と全国家庭管理士協会会員たちが、
2018年11月13日国会の前で「労働者性認める家事労働者法制定要求」しています。
5 家事労働をめぐる新局面
(1)家事労働を対象とする営利的プラットフォーム
しかし、2015年から、家事労働市場に地殻変動が起きました。
共有経済〔シェア経済〕を基盤としたプラットホーム労働の一環として、家事労働を対象にした「ホームクリーニングO2O(Online to Offline)」企業が次々に生まれ始めたのです。これは、スマホのアプリなどを通してプラットフォームを通じて、家事労働者を個々の家庭などに紹介する民間事業で、外国の影響も受けて韓国でも導入されることになったのです。「清掃研究所(カカオ)」、「微笑(アメリカ最大ベンチャー投資社ワイコムビネイト)」、「代理主婦(インターパーク投資)」等がその代表例です。
これらの大多数は「創業企業」で、IT技術者や経営専門家たちが少数で起業し、アプリをベースに需要者(家庭など)と供給者(家事コンパニオン)をマッチングさせる方式ということで加入者規模を大きくした後、大資本から投資を受けるという営利優先の事業拡大です。こうした方式が、現在、家事労働市場の中で占有率が10%を超え、ソウル近辺を中心に急速に拡大する傾向です。*
*2019年6月24日 Eroun_net記事(http://www.eroun.net/news/articleView.html?idxno=6166)
こうしたプラットフォームの家事労働市場への参入は、市民・女性団体や全国女性労組など、立法要求など、家事労働者の地位改善を求める動きにとっては、むしろ新たな混乱をもたらす要素となっているのです。とくに、こうしたプラットフォーム方式を前提に、「新自由主義的規制緩和論」に基づいて、1兆ウォンに達するという「家事労働市場規模拡大」論が登場しています。
そうした流れの中で、「代理主婦」を運営する企業「ホームストーリー生活」が、家事コンパニオン1000人を直接雇用する案を提起し、2019年、文在寅政府下で「規制サンドボックス」(=日本の「国家戦略特区」に類似する規制緩和の特例方式)を通過しました。通常、プラットホーム業者は仲介するだけの立場で、家事コンパニオンを直接雇用するというのは異例ですが、勤労基準法を全面適用するのではなく、休日、休暇などの規定は除外するという大幅に緩和された形での法適用という「特例」です。推進者や政府側は、従来の勤労基準法をまったく適用しない状態よりは「改善」であるという立場ですが、市民団体や労働界からは強い反発の声が上がっています。*
*ユン・エリム「『革新』という仮面で搾取免許を受けたプラットフォーム企業」(2019.12.12毎日労働ニュース)http://m.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=161979
(2)運動の中で提起される「協同組合型プラットフォーラム」
しかし、韓国の労働界や市民団体は、こうした企業やそれに追随する政府の動きを黙って見過ごすことはありません。営利的プラットフォームに対抗して、従来の家事労働者の権利保障運動の延長線上で、「協同組合型プラットフォーム」という対案を示して、これを世論化し、さらに自治体や政府に対して攻勢的な働きかけをしているのです。「ろうそく革命」で腐敗した政権を打倒した韓国市民の底力を感じさせる、前向きな取り組みです。
その先頭に立つのが、韓国家事労働者協会を導いて家事労働者の人権と就業創出活動を進めてきたチェ・ヨンミ さんです。ライフメディ・ケアという協同組合の代表として、家事労働について従来の運営方式を基に、「ウロンガクシ」という独自アプリを開発して、自らプラットフォームを運営することになったということです。*
* 2011年、失業・半失業時の生活保障をテーマに訪韓調査した際、「全国失業団体連帯」の事務局長をされていたチェ・ヨンミさんに会い、当時、取り組んでおられた中年女性の就業を目的とした「ウロンガクシ」活動の話を聞きました。「ウロンガクシ」は、「全国家事労働者協会」の家事サービス代行事業の名称として使われていました。
なお、「ウロンガクシ」は、韓国では誰もが知っている民話「タニシ姫」のことです。農家の若い独身男が田んぼで「嫁が来てくれない」と呟いていると「私と一緒に住みましょう」という声を聞きます。そこにはタニシがいるだけでした。そのタニシを家に持ち帰って水がめに入れておきました。次の日、仕事から帰ると、きれいな若い娘になっていて食事準備など家事がきちんとされていました。タニシは竜宮城のお姫様だったのです。
チェ・ヨンミさんは、何故、協同組合型のプラットフォームを起ち上げたのか次のように述べています。
「国内の家事サービス市場は、政府も手を付けられないほど劣悪な領域です。家事労働者を、家事コンパニオン、ベビーシッター、産後コンパニオンなど3業種に分離して専門化したのはわずか6〜7年前です。
家事サービス市場が大きくなって就業は増えていますが、働く人々の法的な保護はありません。長く働いても給与が余り増えないのです。その結果、中国同胞〔=中国の朝鮮族〕や、多文化〔=外国人〕女性たちがその職場を埋めているのです。
私たちは長い間、家事労働者の劣悪な環境を変えるために制度改善を進めてきました。新しいモデルを作ってきました。また、働く人々が消耗性労働でなく、教育を通じて職業人として自負心を持てるように努力してきました。ところが、プラットホーム企業の登場が市場をかく乱させています。技術を独占した少数資本に利潤が流れて行っています。競争が激しくなるほど、労働条件はより一層悪化して不安になります。」
そして、チェ・ヨンミさんも、当初、プラットフォームについて「アプリを使った気楽な方式」くらいに思っていたそうですが、その広がりを見て「協同組合方式」で対抗することに踏み切ったのです。
「プラットホーム協同組合は、簡単に言えば、プラットホームを協同組合方式で運営することです。協同組合が持つ長所である、働く人々の参加と水平的な構造などで運営されますが、労働条件の劣悪さを防止することができます。」
「「しかし、プラットホーム企業を標榜した企業らの多数が、消費者の便利性を強調するだけで劣悪な家事労働者の人権と労働の質改善に対して無関心です」
「また、このような協同組合モデルが市場に拡大すれば、新しく形成される市場の独占や弊害を防いで、健全な方式で市場が形成されるように誘導することができます。」
「ケア労働が女性なら誰でもできるつまらない仕事でなく、適性に相応しい教育訓練が必要な専門的労働であり、社会と家庭の維持に必ず必要な労働として尊重されなければならないという考え」に基づいて、「社会的意識を変化させるためにプラットホーム協同組合方式が一定の役割を果たす」という期待を述べています」。*
*20190624erounnet「家事サービス劣悪な労働問題、プラットホーム協同組合で解決する」 http://www.eroun.net/news/articleView.html?idxno=6166
6 むすび 日本の「家事支援サービス」営利市場化との関連で
日本でも、家事支援サービス(あるいは、家事代行サービス)の市場化の動きが強まっています。*
*「特集 家事支援サービスの基礎知識」『国民生活』62号(2017年12月)http://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-201712.pdf〕
*武田佳奈「家事支援サービスの利用動向ーサービス普及への課題を探るー」同上
また、介護保険に関連して、関連サービスについては、保険外サービスの活用を、経済産業省が主導して、ガイドブックを作っています。
*厚生労働省・農林水産省・経済産業省『地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集 保険外サービス活用ガイドブック』(2016年3月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000119256.html
このように、安倍政権の下では、経済産業省主導で営利市場拡大の一環としてケア・サービスの市場化が進められていると言えます。ただ、これは利益優先の営利事業なので要注意です。そこでは、市場競争の中で消費者(利用者)の便利性が前面に出て、働く従事者の地位・待遇や労働人権の保障という視点がきわめて弱くなっています。経済産業省は、政府の中でも「雇用によらない働き方」の拡大を主導的に進めています。家事支援サービスも、労働法や社会保険法の適用を前提にせず、法的保護のない「雇用によらない働き方」にされる危険性が大きいと思われます。これは、韓国で問題となってきた「非公式労働」と呼ぶ弊害の多い働かせ方に当たると言えます。
韓国と日本は、?家事労働を女性に押し付けてきたこと、?共働き世帯増加など家族のあり方が変化する中で、家事労働の社会化が進んでいること、?プラットフォームを通じたケア・サービスの営利産業化・市場化が進んでいることなど、多くの共通点があります。
しかし、韓国では、協同組合だけでなく社会的企業などの非営利事業を支援する法制度も整備されており、ソウル市や京畿道(ソウル市隣接市町村の上部自治体)は非営利の社会的事業を支援しています。障害者や女性など弱い立場の働く人の労働人権を保障するための非営利組織に、国や自治体の財政的支援があることにも注目する必要があると思います。*
*朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長自身、市長当選以前は、全国各地に障害のある人たちを雇用する社会的企業=「美しい店」の代表としても有名でした。チェ・ヨンミさんたちのライフメディ・ケアも、京畿道財政的支援を受けているとのことです。
2019.12.02ハンギョレ研究院_プラットホームの「ひき臼」に社会的経済の「気孔」を
http://heri.kr/bettersociety/969343
本来、「家事支援サービス」も、公的責任による非営利の福祉制度として行われるべきだと思います。共働きが当然の社会では、介護・保育などのケアサービスは公的に行われ、北欧諸国では公務員が担当しています。日本も以前は公的福祉サービスとして自治体が公的責任主体となっていました。従事者は「措置制度」の下で公務員または「準公務員」という待遇でした。それが介護保険制度導入をきっかけに変質して、公的責任が後退する一方、労働者の地位や待遇はきわめて低劣な労働条件に置かれ、人材を確保することが困難になっています。しかし、現在の動向は、「家事支援サービス」を介護保険に含めるのではなく、そこからも排除して市場化しようというものです。
韓国は、公的福祉制度の整備が遅れ、介護保険も日本をモデルに遅れて作られました。その点では日本が先行していたのですが、家事労働者の地位や権利実現のために取り組む運動は、韓国の方が日本よりも先を進んできたと思います。そこでは、家事労働者の労働者性認定を求める主張、ILO家事労働条約批准の論議、非営利の協同組合型プラットフォームなど、日本には見られない注目すべき先進的な動きが見られます。
映画「パラサイト」の中で、後半の「サブ主役」の一人として登場する家政婦ムングァン*を見ながら、日本とは違って大きな社会的イッシュー(論議)になっている韓国の家事労働者問題について考えることになりました。
*ムングァンと夫クンセは、映画「パラサイト」の予告編やポスターには登場していません。「サブ主役」とも言える重要な役ということが分からないようにという「配慮」でした。そして、観客動員が700万人を超えて初めてインタビューに出るようになったということです。