嶋崎量弁護士「新型コロナによる一斉休校/保護者が安心して休める政策を!」(3/4)

新型コロナによる一斉休校/保護者が安心して休める政策を!
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasakichikara/20200304-00165997/
嶋崎量 | 弁護士(日本労働弁護団常任幹事) 2020/03/4(水) 11:41

〔写真〕労働者が子の世話をする様子(イメージ)(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大の取組として、政府が全国の小中高などに対する臨時の一斉休校が要請し、実際に各地で休校開始されました。
突然の一斉休校により、労働者・フリーランスなどで働く保護者等が、休校となった子ども達の世話に苦慮しています。

保護者等は、「休めばよい」と言われても、急に休めない方が多数いらっしゃいます。
たとえ労働基準法で法的には有給休暇の権利行使が認められてはいても、多くの労働者は事実上それが取りづらい状況にあります。

また、そもそも決して多くはない有給休暇日数ですから、将来に備えて残しておきたい(特に子どもの病気怪我、自分の病気や介護などのため)のに、一斉休校のために消費せねばならないは、酷な話です。

なお、”’安倍総理の予算委員会における「有給休暇取りやすい対応お願いする」との発言”’は、本来労働者が自由に使える有給休暇を使用者側に裁量があるかのように誤解を与えるものでミスリーディングで問題です。本来、経済界に対して端的に「有給休暇の取得は妨げてはならない!」という法の趣旨を説くべきでした。

保護者休業のための助成金制度創設

そんな状況ですが、政府が安心して保護者が休暇をとれるように、「新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)の創設を発表しました。
この制度、(後述する不十分な点はありますが)一斉休校の狙いである感染拡大を防ぐためにも、波及する保護者等や使用者の困窮状態を防ぐためにも、重要な意義ある政策だと思います。

このテーマについては、筆者が2020年3月3日に TBSラジオ荻上チキさんのSession22に出演した際に説明させていただきましたが、今回もう少し掘り下げたいと思います。

この制度は、要するに、臨時休業した小学校等に通う子を世話するため休業した労働者(非正規も含む)に対して、労基法が定める有給休暇とは別の特別の有給休暇を与えて給料の全額を支払った企業を対象として、1人・日額上限8330円の助成金を出す新たな制度です。

具体的には、これです。
〔朝日新聞の記事〕小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援
(新たな助成金制度の創設)
https://www.asahi.com/articles/ASN3252NVN32ULFA00T.html

この朝日新聞の記事が、制度の概要としては分かり易いです。

この制度により、企業は子どもの世話をするため休業したい労働者に対して、労基法の有給休暇消化を気にせず、安心して子の世話のため休暇を取ることができます。

保護者などが子どもの世話ができず、行き場のない子どもらが学校以上に感染リスクの高いと思われる場所(学童など)に集団で隔離されている状況の問題点も指摘されています。保護者等の休業が促進されたらこの状況も緩和されるでしょうから、感染拡大にも寄与します。

使用者は、政府の今回の制度の意義を十分に理解し、子育てに関わる労働者が休暇を希望する場合、快く送り出して欲しいと思います。

不十分な点〜追加支援策を〜

とはいえ、不十分な点もありますから、この点は追加の支援策が必要です。

金額上限の設定
なにより、助成金の上限が決まっている(1人当たり日額上限8330円)点が問題です。
使用者は労働者に対して賃金全額を支払わねば制度対象となりませんので、上限額との差額が生じる(=8330円以上の日額賃金の労働者)については、使用者側において差額の負担が発生します。これを避けるべく、特別休暇取得が使用者から避けられる可能性があります。

政府の政治的な判断で、社会全体をコロナウイルスから守るべく一斉休校を決断したのですから、そのコストをたとえ一部でも使用者に負担させるのは不合理です。
ここは、全額負担の制度を創設するべきでしょう。

そして、労働組合など労働者側からは、今回の臨時休校に対応した特別休暇の創設を要求すべきでしょう(たとえば、ナショナルセンター連合は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」に基づく要請において、労働者の賃金など処遇に影響がでないように対応を求めています)。

中学高校が除外
助成金の対象となる子どもから、中学高校が除外されている(小学校と特別支援学校(高校まで)に加え、幼稚園、保育所、学童保育、認定こども園など)ことも問題です。
中学高校の子どもでも、子どもの面倒を見ることが必要な場合もあり得ます。一斉休校の対象となっている以上、ここは敢えて除外すべきではありません。

フリーランスの除外
対象としてフリーランスや自営業者が含まれていないことも、大問題です。
とくに現在は、実態は労働者と変わらないのに、「雇用によらない働き方」である方も多数いらっしゃいますし、このような働き方を政府は推奨してきた政治的な責任もあります。

コロナウイルスの感染拡大を防ぐなら、世話をするべき保護者等が雇用契約が否かによって、差異を設けることに合理性はありません。労働保険特会からの支出が難しいなどの事情があるにせよ、別途予算措置を講じて対応すべきです。

なお、政府は、フリーランスや自営業者にも措置を講じるとして、「緊急貸し付け・保証枠として5千億円の確保の措置を講じる」との方針との方針を示していますが、これも不十分です。

融資など返済を求められるものでは、休業を促せるような支援にはなりません。
とりわけ、今回のように収束時期が予測不能な場面では、フリーランスはいつになったら返済できる状況になるのかも予測ができません。フリーランスに対しても、きちんとした補償をすべきです。

ちなみに公務員は
この点、政府は公務員については、以下の通り、出勤しない子どもの世話が必要な場合には出勤しなくとも給与が全額支払われるような措置を講じています。


事院は2日までに、新型コロナウイルスの症状が見られたり、臨時休校の子どもの世話が必要になったりして国家公務員が出勤しない場合、年次有給休暇とは別に設けられた有給の「特別休暇」扱いにすると各省庁に通知した。総務省も、人事院通知を参考にしながら地方公務員の休暇取得に対応するよう、全国の都道府県や政令指定都市に通知した。
人事院規則は「出勤が著しく困難と認められる場合」は特別休暇を取得できると定めている。通知は、職員や家族に発熱などの症状が出た場合や、小中高校の臨時休校により自宅で子の世話が必要になった場合も、この規定に該当するとした
出典:東京新聞(共同)


文科省もこれにそった対応をしており、公立学校教員(臨時任用はもとより、非常勤講師含む)も同様の対応がなされるはずです。

他方で、未だに市町村が直接雇用する労働者である臨時職員の給食調理員(県費負担教職員ではない方)等について、「臨時休校で自宅待機の給食センター臨時職員 待機中の給与支払われず」といった報道もでています。

地方自治体でも、雇用形態の差別なく全額の給与を補償することが必要です。
こういった公務員全般への対応を、できる限り民間にも波及させること、他方で官民問わず使用者の負担については政府が支援することが、社会全体をコロナウイルスの脅威から防ぐためにも重要です。

まとめ

新型コロナウイルスが猛威から、子どもらを含め社会全体を守るという趣旨は、多くの市民に指示されうる政策でしょう。

とはいえ、情報が開示されず、意思決定プロセスも明らかではないまま、突如として行われた一斉休校により、子ども達、保護者等、さらにはその使用者を含め、社会は大混乱です。
官民問わず、保護者らが経済的な面でも安心して仕事を休めない状況では、行き場を失った子どもらがかえって危険にさらされるうえ、社会の混乱をも招きます。

安心して子どもの世話をするために保護者が休めるように、政府のさらなる対応は急務です。


嶋崎量
弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?−無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「裁量労働制はなぜ危険か−『働き方改革』の闇」(岩波ブックレット)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?−こんな記載には要注意!−」(ブラック企業対策プロジェクト)など。 

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