伍賀一道(金沢大学名誉教授)「休業者600万人(20年4月)はどうなったか ― 『労働力調査』(5月結果)をもとに ―」 (7/6)

伍賀一道(金沢大学名誉教授)さんから、最新の「労働力調査」の分析記事を寄稿していただきました。新型コロナ感染症が拡大して以降の雇用をめぐる動向については、既に、2回の分析記事を掲載しています。
第1回 「最新の雇用・失業統計は何を示しているか」 (5/6)
第2回 「雇用・失業の新局面 ― 休業者600万人の衝撃」 (5/31)
今回が3回目の分析となります。
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 コロナ危機によって引き起こされた「雇用崩壊」の現状がテレビや新聞などで連日報じられています。例えば、「うどんすき」で有名な「東京美々卯(みみう)」は客数の激減で5月下旬全店を閉鎖、約200人の従業員に退職同意書の提出を求め、応じなかった社員は解雇しました。スポーツジムで働くインストラクターのシングルマザーの女性は3月からレッスンが休止になって休業を迫られたものの、休業手当が支払われず貯蓄を取り崩して生活しています。「コロナによるジムの休業は使用者の責任によるものではないため、休業手当を支払う必要がない」というのが経営側の言い分です。さらに仕事と住まいを同時に失って路頭に迷っていたところ、食事提供や生活相談を行う労働組合の取り組み(ユニオンみえ主催の「派遣村」)によって救われたという労働者もいます。2008年~09年のリーマンショック時の悪夢が再来したようです(『週刊東洋経済』2020年6月27日号、「特集・コロナ雇用崩壊」参照)。

(1)休業者600万人はどうなったか

 6月30日に「労働力調査(基本集計)」5月分の結果が公表されました。完全失業者は4月調査から19万人増えて198万人に、完全失業率は0.3ポイント上昇して2.9%になりました。しかし、この調査結果を見る限りではリーマンショック時のような完全失業者や完全失業率の大幅増加(上昇)に至っていません(図1)。「労働力調査」の「完全失業者」の定義がきわめて狭いため、失業の実態から乖離しているという大きな問題がありますが、この点は別の機会に取り上げることにし、ここでは前回掲載の拙文(「雇用・失業の新局面―休業者600万人の衝撃」5月31日付)に続いて「休業者」の動向に注目したいと思います。今回のコロナ危機では事実上の失業者が休業者のなかに混在していると考えられるからです。では、4月の休業者597万人は5月にはどのようになったでしょうか。

 図1および図2のとおり、リーマンショック時は完全失業者が300万人をはるかに超え、完全失業率も5%以上になりましたが、休業者はそれほど多くはありません。これに対し、今日のコロナ危機のもとでは完全失業者よりも休業者の激増が顕著です。4月の「労働力調査(基本集計)」(以下、4月調査と略す)で597万人という記録的数値になった休業者は、5月調査では423万人に減少しました(図3)。「労働力調査」の調査対象期間は月末1週間のため、政府の緊急事態解除宣言(5月25日)による経済活動の再開を一部反映したものと考えられます。ただし、休業者が減ったとはいえ、この人数は先月に次いでこれまでにない異常な数値です。

 「労働力調査」の定義では休業者は「仕事を休んでいるものの、賃金または休業手当などが支払われている状態」ですが(詳細は前回掲載の拙稿を参照下さい)、実際には手当なしに休業を強いられている人が相当な人数に上っています。これは労働基準法に反する状態ですが、「労働力調査」の対象となった人で休業状態にある場合は、たとえ手当をもらっていなくても「休業者」(調査票の選択肢は「仕事を休んでいた」)に○をつけたものと想定されます。「労働力調査」は違法状態を想定していないため、そういう人にとって他に選択肢がありません。

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