私立学校における長時間労働の改善について1 ~関西大学中等部高等部における経験をもとに~

○私立学校の教員をめぐる背景
私学教員の働き方について、長時間労働が大きな社会問題になっています。
 教員は、公立私立にかかわらず、公教育を担い、社会的に重要な役割を果たしています。
公立学校の教員は公務員として地位が守られている反面、給特法によって残業代が発生せず、残業時間が管理されていません。しかし、近年、教員の長時間労働が問題になり労働時間管理が始まっています。
 一方で、私立学校の教員は、経営が独自である点で民間企業と同じ立場であるにも関わらず、私学経営者は「給特法に準じて手当を支給」と我田引水の論理を振りかざし、労働時間管理を行っていない経営者が多くいます。当然、残業代は支払われていません。残業のすべてが違法でサービス残業になっています

 また、経営者が独自の経営、という論理を振りかざすことも多く見受けられますが、民間企業のように株主の監視や経営責任を追及する場がないことから、経営者が理事会を私物化し暴走することが多くあります。そのような学校では「民間」の性格を強調するあまり、公教育とは相容れない利益優先、効率優先の経営を行いがちになります。そこでは個々の生徒の成長に寄り添う姿勢よりも受験生の獲得や大学進学等の成果追求に偏りがちになります
 効率優先の経営は、期限付き雇用の依存が進むことが多く、自分の雇用を守るために経営者にすり寄ることを強いられる先生の姿がそこにあります。そこには労働者としての教員の分断が強められ、自らの権利や生活を守ることができない状況があります。

ここでは、関西大学中等部高等部において「残業代」を認めさせた組合の成果を報告します。また、ブラック私学経営者の手法を3回に渡り明らかにします。

○まず、このような背景を持つ私学の教員について多くの私学教員をめぐる労働環境の共通点に関し、具体的に整理してみます。
(1) 私学教員の働き方の現状
① 労働時間管理がまったく行われていないので、どれだけ働いているか、まったくわからない。教員も管理職もどれだけ働いているか把握していないので、健康等が害されていてもまったく意識されておらず、対策も打たれない
② 学校の中で労働時間の管理がなされていないので、残業という概念自体がない
③ 残業という概念が意識されていないので、36協定未締結の状態で残業が強制されている
④ 労働時間管理がなされていないにも関わらず、勤務時間の拘束が強化されている
⑤ 昼休みなどの児童生徒対応で休憩が取れない状態のまま、授業などに従事しているので、休憩付与がなされない状態が放置されている。

(2) 法的な問題(労基法違反)
① 労働時間管理が行われていない
週40時間の労働時間を守ることができない状態。残業代の未払いの根本的原因。
労働時間管理を行わないことは、経営者に取っては好都合で、ブラック経営者の常套手段の一つ。労働時間が計られていなければ、当然残業認定が不明確になり、ブラック経営者にとっては残業認定できないことの理由になりうる。争っているうちに時効の主張が可能になってしまう。
② 36協定未締結
勤務時間を超えた勤務が行われているにもかかわらず、36協定未締結の状態は、労働基準法違反。労働基準監督署はこの点についてはかなり厳しく指導する。
③ 一斉休憩の原則が適用されないにも関わらず、労使協定が結ばれていない。
労基法で定められた、一斉休憩付与の原則は私学労働者にも適用される。従って、労使協定による一斉休憩付与の除外の協定が必要になるが、一斉休憩除外の協定を結んでいないことが多い。

第2回へ 関西大学中等部高等部での具体的な交渉過程等について報告します

この記事を書いた人

伏見太郎