朝日新聞7月12日付け夕刊「関西スクエア」に以下のインタビューコメントが掲載されました。
影落とす派遣労働拡大 森岡孝二 (関西大学教授)
事件は、どんなことがあっても許されるものではない。ただ、秋葉原の事件では、容疑者が派遣社員だったことが注目された。この機会に非正規労働者の状態について考えることは意味がある。
90年代から派遣労働者が増え始めた。法改正で自由化が進み、低賃金で細切れ雇用のフリータ型派遣が様々な問題を引き起こしている。
まず、大量のワーキングプアが生まれ、ホームレスやネットカフェ難民になった。また派遣先は単調な仕事で、同僚との付き合いも少なく、感情の制御など人間関係のスキルを学ぶ機会も少ない。派遣労働者は「派遣さん」と呼ばれる。正式な従業員名簿には載らない。存在すらまともに認められない状況で、人はどのような心理になるのか。
追い込まれた人は、しばしば「悪いのは私だ」と自分を責める。最悪の場合は自分自身を排除する。それが自殺だ。その心理が内ではなく、外に向かう場合もある。
同じような境遇の人は何十万人とおり、確かに容疑者は極めて例外的である。ただ、働いてきた状況が容疑者の心に何らかの影を落としていたことはあるのではないか。
派遣はどう見ても、まともな働き方、働かせ方とは言えない。先が見えないのではなく、先がないのだ。02年以降の景気拡大後も非正規労働者が増えており、これを放置し、拡大させた政治の責任は大きい。生命、健康、家族、地域社会が危うい。