過労や職場のストレスから、うつ病などを発症する人が増えている。二〇一一年度、精神疾患の労災申請は過去最多を更新した。急増する申請に対応するため、厚生労働省は昨年末、認定基準を明確化。審査期間が短縮され、認定率も上がった。ただ、精神疾患はいくつかの要因が絡み合うケースが多く、「労働時間数などの基準が独り歩きし、救済されるべき人がはじかれるのでは」と懸念する声もある。 (中沢誠、皆川剛)
脳・心臓疾患の労災認定には、厚労省が過労死との関連があるとする「過労死ライン」の月八十時間の時間外労働など、長時間労働の基準が数値化されている。これに対して精神疾患による労災認定には、具体的な数値がなかった。
厚労省が昨年末に定めた新基準では「二カ月連続で月百二十時間以上の時間外労働」などと具体的な時間数を明記。従来は必要だった専門医の判定も判断が難しいケースに限定し、手続きを簡略化した。
厚労省によると、一一年度、労災の平均審査期間は八・五カ月と過去十年で最短になった。新基準導入後の三カ月余りに限れば八・三カ月。厚労省は「請求件数が増える中、わずかでも下がったのは効果があった」とみる。認定率は新基準導入後、35・6%に上がった。
新基準で決定が出た熊本県のレストランの男性店員(43)の場合、申請から二カ月半のスピード認定だった。自殺を図り寝たきりの男性店員は、うつ病発症前、二カ月連続で基準を上回る月百二十時間以上の時間外労働を行っていた。
一方、うつ病発症後に自殺した千葉県の女性社員=当時(22)=の場合、同じ新基準で不認定となった。この女性の時間外労働は月七十時間ほど。電話で保険を勧誘する会社に入社し、二カ月でうつ病を発症、その二カ月後に自殺した。労働基準監督署は、長時間労働だけでなく、職場環境の悪化や周囲の支援体制の不備などのストレス要因をいずれも認めなかった。
女性の代理人の岡村親宣弁護士は「新入社員であったり、客の苦情にさらされる業務内容が考慮されていない」と指摘。「基準を金科玉条にして、しゃくし定規に切り捨てている。もっと個々の事情に即して、総合的に判断すべきだ」と訴えている。