7月8日付け「読売新聞」の社説は、「日雇い派遣 規制強化の前に冷静な論議を」という表題で、日雇い派遣の禁止に向けた与野党の動きに水をさしている。
前段では、仕事が不安定なうえに、賃金や労働時間が不透明で、安全対策、教育訓練、社会保険などに不備があることを理由に、「確かに、日雇い派遣には課題が多い」と言う。しかし、後段では、「学生や主婦には、時間に余裕があるときに仕事ができる便利さがある。直接雇用のアルバイトなどと違い、企業も募集や面接業務の負担から免れる。中小企業などにはありがたい制度だ」と「プラス面」をあげて、規制強化に待ったを掛ける。
この読売社説の事実認識はお粗末すぎる。日雇い派遣で問題になっているのは、仕事の不安定さでも、賃金や労働時間の不透明さでも、社会保険の不備でもない。問題は、間接雇用でかつ細切れ雇用あるために、労働者の労働条件の決定が、派遣先と派遣元の「商取引」に委ねられ、労働の買い叩きと投げ売りが凄まじい勢いで働き手を襲っている点にある(中野麻美『労働ダンピング』岩波新書)。
戦前の日本においては、労働者を無権利状態において労働者の求職や就労を食い物にする手配師や周旋屋などの労働者供給業者が横行していた。人夫を抱える親方が会社と契約して彼らを会社に派遣する親方制度もあった。戦後の職業安定法(1947年制定)は、使用者と労働者の間に中間業者が介在することにともなうピンハネなどの悪質な行為を生じさせないために、労働者供給事業を行うことも、利用することもきびしく禁止した。1985年に労働者派遣法が成立したときに懸念されたのは戦前の非人間的な働かせ方の復活であったが、それが杞憂でなかったことを証明しているのが今日の日雇い派遣である。
読売社説はあたかも学生や主婦が時間に余裕があるときに仕事ができる便利な制度が日雇い派遣であるかのように言う。しかし、先頃発表された2007年「就業構造基本調査」の結果によると、2002年調査と比べ、「アルバイト」(408万人)は16万人減少したのに対し、「パート」(886万人)は103万人増加し、「労働者派遣事業所の派遣社員」(161万人)も89万人増加している。アルバイトが減ったのは派遣が大きく増えたからにほかならないが、増えた派遣の主力は、低賃金によって生活しなければならない非正規労働者であって、けっして「学生や主婦」などではない。
日雇い派遣は「中小企業などにはありがたい制度だ」とうのも見当はずれである。日雇い派遣の最大の需用者は大企業の製造現場であって、中小企業ではない。
読売の論説委員には、日雇い派遣の規制強化に水をさすまえに、事実を踏まえた冷静な論議をしていただきたい。