安倍晋三政権のもとで労働・雇用分野の規制緩和の議論が活発化しています。金銭解決を含めた解雇の自由化、労働時間規制の緩和と適用除外制度の導入、有期雇用や派遣労働の規制緩和など、労働者保護の根幹を破壊する内容です。これまで労働者、国民の批判で果たせなかった財界の願望を実現しようという危険な動きの復活です。「デフレ不況」から脱却するために賃上げと安定した雇用への政策転換が強く求められているとき、より悪化させようとする動きは許されません。
財界中心のメンバー
労働の規制緩和は、安倍政権の経済対策の「第3の矢」として6月にまとめる「成長戦略」の重要な柱です。産業競争力会議と規制改革会議を中心に検討されています。問題は労働者の働き方を検討するというのに、会議のメンバーはすべて財界代表と財界の意見に近い学者で構成され、労働者代表が一人も入っていないことです。
いうまでもなく労働問題は、使用者(資本家)と労働者の利害が対立関係にあり、しかも使用者が圧倒的に優位です。このため労働政策は労使双方の代表に有識者を加えた3者構成で議論するのが世界の常識です。それを無視して、財界中心のメンバーで、企業の競争力強化だけの視野で、労働者を安く使い回そうという議論は乱暴で不公平きわまるものです。
小泉純一郎内閣、安倍第1次内閣のとき、このやり方で労働法制の改悪、派遣など非正規雇用の拡大政策が強行され、ワーキングプアの増大など格差と貧困の広がりが社会問題になりました。その深刻さはいまも続いています。
労働者の状態悪化をこれ以上許すわけにはいきません。労働者の解雇を金銭で解決する「解雇自由化」は、日本が「首切り自由社会」になることです。もうけの悪い事業をもうけの出る事業に容易に転換するために、労働者を簡単に解雇できるようにするのが財界のねらいです。労働者の生活や地域経済の破壊など眼中にありません。
労働基準法で定める1日8時間労働などの労働時間規定は、労働者にとっては過労死などを防ぐ重要な保護規定ですが、財界は「競争力強化」の障害物としかみていません。この障害を突破する標的の一つが、労働者に「裁量」がある仕事に限って認められている裁量労働制の適用範囲などを緩和することです。もう一つは、第1次安倍内閣が導入に失敗した「残業代ゼロ法案」です。事務・研究開発系の労働者について、一定の条件(かつて経団連は年収400万円以上を主張)をつけて労働時間規制の適用除外にすることです。
横暴そのものの議論
雇用は、「円滑な労働移動」の名のもとに不安定化する方向です。派遣労働は、非人間的な「日雇い派遣」が批判され、昨年の法改定で30日以内の労働契約が禁止されました。有期雇用も、昨年の法改定で、契約が通算5年を超えたら無期契約に転換する規定を設けました。競争力会議ではこれが「過剰」とされ、見直すといいます。
政労使の合意で改定したばかりの問題を、労働者代表がいない財界中心の会議で元に戻すような議論は横暴そのものです。労働者を保護する規制を破壊して、大企業の利益を追求するだけの議論はただちに中止するべきです。