河北新報 2014年08月04日
過酷な労働が原因で尊い命が失われたり、重い病にかかったりするケースが後をたたない。そんな「不健康な社会」に一日も早く終止符を打ちたい。
超党派の議員立法として提案された過労死等防止対策推進法が6月成立し、年内の施行が決まった。大切な家族を亡くし「自分たちと同じような思いをしてほしくない」と法制化を求めていた遺族らの思いが、ようやく結実した。
過労死防止法は長時間労働の制限や、雇用主への罰則規定など、企業活動を直接制限する内容ではないが、過労死や過労自殺を、「遺族のみならず社会にとって大きな損失」と位置付け、防止策の実施を「国の責務」と明記した意義は小さくない。
国際社会で日本の過労死は、経済反映の裏にある特異な労働環境の象徴とみられてきた。日本政府は2013年に、国連社会権規約委員会から防止策を強化するよう勧告もされている。「仕事に生き、仕事に死ぬ日本人」などと海外から言われることのないよう、法の理念を大切にしながら実効性を高めたい。
法律は過労死や過労自殺について、「業務における過重な身体的もしくは精神的な負荷による疾患を原因とする死亡や自殺」と定義した。
ただ、業務との因果関係を客観的に示すことは難しい。労災申請しようにも雇用側の協力なしに詳細なデータを集めることは困難で、泣く泣く申請を見送った遺族も少なくない。
厚生労働省によると、13年度にくも膜下出血や心筋梗塞などの脳・心臓疾患で労災認定されたのは306人で、死亡者は133人。うつ病などの精神疾患では436人が認定され、未遂を含む自殺者は63人だった。精神疾患の請求件数は前年度比152人増の1409人で過去最多を記録しており、事態の深刻さがうかがえる。
法は国や自治体に過労死の実態調査を求めている。統計に表れた数字はあくまでも氷山の一角との認識に立ち、労災認定された事案だけでなく幅広い対象で実態をあぶり出してほしい。
政府はまた、厚労省内に置く「過労死等防止推進協議会」の意見も参考に、過労死防止の基本計画作成を義務付けられた。協議会には遺族も加わる。間近で過労死と向き合ってきた人の意見を真摯(しんし)に受け止め、具体策を提示してほしい。
精神疾患で労災認定された人で、「パワハラ」が「仕事量が増えた」とともに原因のトップとなった。身体的精神的苦痛を与え人間的な生き方を奪う行為は人権侵害にほかならない。
資源の乏しい日本では人材こそが宝だ。少子高齢化に伴う構造的な労働力不足が深刻化する中、まじめに仕事に取り組む労働者の権利と健康こそが守られるべきものだ。
法施行後は「勤労感謝の日」がある11月が、過労死防止の啓発月間となる。「過労死」という言葉が初めて法律に盛り込まれた重みを国民全体でかみしめる機会としたい。