佐賀新聞 2014年8月6日
牛丼チェーン「すき家」の労働実態が、第三者委員会の調査報告書で明らかになった。一口で言えば、従業員が無理に無理を重ねるシステムである。非管理職社員の平均残業時間が月109時間で、健康障害リスクが高まる「過労死ライン」(月100時間)を上回るなど、現場は「法令違反状況」だったと結論付けている。
退職者が相次ぎ、人員不足による労働環境の悪化が今年3月ごろから表面化し、約2千店舗のうち、最大約290店が一時休業に追い込まれた。運営会社ゼンショーホールディングスが、弁護士などでつくる第三者委を設けて労働実態を調査してきた。
第三者でなければ把握できないのは、社内に労務管理する部門が正常に機能していない証拠だ。店舗に勤務した社員のほとんどが24時間連続勤務を経験し、「恒常的に月500時間以上働いた」「2週間帰れなかった」と証言する社員もいた。報告書の中身は信じられないものばかりだ。
慢性的な人手不足にもかかわらず、新規出店を続け、残業の増加に拍車がかかった。過重労働の象徴とされた一人勤務体制についても、「強盗が多発したときに改善すると(経営側は)言っていたのに、なされなかった」と、現場の声に経営陣が耳を傾けていなかったことも明らかになった。
価格競争や利益確保を優先するあまり、働く現場に多大なしわ寄せが来ていた。運営会社のトップは「過去にやってきたことの過信が根底にあった」と成功体験が対応の遅れを招いたと総括している。長時間労働が企業体質となっていた。
外食業界最大手ゼンショーグループのビジネスの仕組みは、安価な外食の暗部も物語る。厳しい競争、デフレ経済の下で勝ち抜いてきた。そこには安さを求める消費者ニーズに応える使命感もあっただろう。だが、そのために何をしてもいいわけではない。
労働者に無理を強いれば、いずれ破綻が生じる。好条件の働き口がほかにあれば、労働者に冷たい企業から人は離れていく。今回は景気回復で労働市場が改善したことが、待遇の悪い職場を浮き彫りにした。
似たケースはほかにもある。全国展開の居酒屋チェーンでも、従業員の仕事の負荷を減らすため、60店舗の閉鎖を決め、1店舗当たりの従業員を増やした。このチェーンは正社員が過重労働で自殺したとして損害賠償請求を起こされ、4月入社の新卒採用者も当初目標の半分にとどまっていた。
過酷な働き方をさせて一時的に利益が確保できたとしても、結局は経営に跳ね返ってくる。経営者は反面教師として学ばなければ、労働者から見放される。
国の監督責任も無視できない。報告書には、違法な長時間労働などを理由に2012〜14年度、労働基準監督署から60件を超える是正勧告が出されたと記している。労働監督行政が効果的な指導ができていない証拠にほかならない。
先の国会で過労死防止対策推進法が成立した。過労死を防ぐ対策を国の責務とした。すき家のケースは氷山の一角で、外食産業に限られたことでもないだろう。過重な労働が社会から一掃されるように国はしっかり役割を果たしてもらいたい。(宮崎勝)