川西玲子さん(Asu-net副代表)「この理不尽を再び許さない/映画「時の行路」を観て(3/38)

この理不尽を再び許さない/映画「時の行路」を観て   
 陽射しが明るくなり、春が近づく気配が感じられる3月は、反対に非正規・有期雇用労働者の心は暗く重い。「雇止めされないか」「来期も契約できるのか」雇用不安におびえる季節でもある。おりしもコロナ感染症で経済の先行きが厳しくなり、またもや企業は非正規労働者を真っ先に切り捨てて、乗り切ろうとするのではないか、と不安は増大している。この映画は10年以上前のリーマンショックに端を発した「派遣切り」の話だが、恐ろしいほど今日的である。決して同じようなことを繰り返させてはならない。
職場を追われた派遣社員
 主人公は大手自動車メーカーのベテラン旋盤工として働く派遣社員である。青森の実家に残してきた妻子に仕送りをしながら一緒に暮らせる日を夢見て、必死に頑張ってきた。しかし、ある日突然、リーマンショックによる非正規労働者の大量首切りによって、契約途中でありながら理不尽にも職場を追い出されてしまう。「俺たちはモノではない!」使い捨てにされることを許さず、やむにやまれぬ気持ちで労働組合に加入して闘い始める。熾烈になっていく闘いと家族の狭間で悩みながらも、家族や仲間の温かさに支えられ、連帯の本当の意味を知っていく。神山征二郎監督は、日本の裁判が現場の実態に耳を貸さず、大企業擁護の姿勢に終始する実態も明らかに映し出している。
労働組合の原点は仲間の連帯
 この10年間日本の「格差」と「貧困」は留まるどころか、さらに深刻さを増して危機的状況にある。その原因は労働の現場「職場」の中にある。あまりにも差がある雇用形態の違いや、あまりにも大きな「富」の分配の差が「格差」と「貧困」を拡大してきた。この克服に有効に力を発揮できるのは「労働組合」しかない。
 この映画の中では、労働者の中でも最も弱い立場の派遣労働者が、労働組合の支援のもとで立ち上がり、労働者としての当たり前の権利を主張していく。
 私も1年雇用の自治体非正規職員として24年間働いてきた。映画で描かれている、怒りに震える団交場面、腕章を巻いての門前でのビラ配り、仲間の支援のためのカンパ、時には家族の心配を説得しながら闘い続ける姿は、まさに自分が歩んできた姿と重なって胸が熱くなった。
一人では決して抵抗できない大きな力に、ともに闘う仲間がいるから頑張れるという「労働組合」の原点をしみじみ実感させてくれた。
2008〜09年の「派遣村」から派遣労働者の劣悪な雇用実態が社会的に共有され、JMITUの各地の闘いは、全国の非正規労働者を「私達だって声を挙げていいんだ」「組合をつくれるのだ」と励ましてくれた。
韓国映画やイギリス映画ではごく当たり前に労働組合の姿が描かれる、しかし日本映画ではほとんど登場してこない。労働組合の姿がリアルに描かれた貴重な作品でもある。この映画は、決してハッピーエンドではないが、日本全国の無数の同様な闘いが、積み重なって非正規の闘いを少しずつ前に進めている。もう一度日本の労働者の働き方や、「労働組合」の役割について深く考えさせてくれた。
                 NPO法人働き方ASU-NET副代表

                       川西玲子

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