東京新聞【社説】内定取り消し 拙速な経営判断は慎め (3/23)

【社説】内定取り消し 拙速な経営判断は慎め
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020032302000143.html
東京新聞 2020年3月23日

新型コロナウイルスによる経済危機が広がる中、新卒者の内定を取り消す動きが出ている。政府などはけん制に乗り出しているが当然だ。若者の未来を損なう拙速な判断は厳に慎むべきだ。

 政府によると、中小企業を中心に十三社で内定取り消しが報告されている。いずれのケースも感染拡大による不安から経営者が極端な判断に踏み切ったのだろう。

 採用内定期間中、雇用者には採用を止める解約権が留保されている。ただこれを行使できるのは、その期間中に罪を犯したり、大学や高校などを卒業できないといった場合に限定される。

 今回のような経営不安を理由にした取り消しは、労働契約法で定める解雇権の乱用にあたる可能性がある。経営者が法を熟知した上で雇用をめぐる判断をすべきなのは言うまでもない。

 こうした中、取り消された学生に手を差し伸べる企業も出始めている。経営者の心意気も含め称賛したい。

 内定取り消しとともに懸念されるのが今後の採用計画だ。ここ数年、少子化などに伴う人手不足を背景に、大小を問わず企業の採用意欲は旺盛だった。学生にとって売り手市場とも指摘されてきた。

 しかし、経済の混乱は世界レベルで急速に広がっている。このため来年春以降、各企業が採用を大幅に抑制する可能性は否定できない。今の状況が長引けば、打撃が大きい観光や運輸、外食産業などは雇用面も含めた経営体制の見直しを迫られるだろう。

 忘れてはならないのは一九九〇年代半ば以降に起きた極端な就職難だ。就職氷河期とも呼ばれ、非正規労働者激増の温床にもなった。この時代に就職活動をした世代の多くは、今もなお困難な人生を強いられている。

 政府はこの世代を救う政策を実施しているが、効果を上げているとは言い難い。人生のスタートで大きく躓(つまず)いた人々が現在も不遇をかこち、その不満は社会全体に影を落としたままだ。

 当時、特に大企業の経営者が足元の景気動向にとらわれ、次元の低い採用策を取ったのが就職難の主因だ。

 企業を統治する上で採用は、若者に自らの未来を託す最も重要な行為だ。そこには中長期を見据えた高い視点からの判断が求められるはずだ。

 就職氷河期を再び起こすことがないよう、経営者は肝に銘じてほしい。 

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