藤田孝典さん 拝啓 中西宏明 経団連会長様「氷河期世代を生み出した点を反省」いやいや反省パフォーマンスはもうやめて (3/30)

拝啓 中西宏明 経団連会長様「氷河期世代を生み出した点を反省」いやいや反省パフォーマンスはもうやめてhttps://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20200330-00170548/
藤田孝典 | NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授 2020/03/30(月) 17:32

〔写真〕就職氷河期世代を生み出してきたことに反省を示す経団連提言(中西経団連会長)(写真:つのだよしお/アフロ)

経団連が政策提言を発表

日本経済団体連合会(経団連)は、3月30日に新型コロナウイルスに関連して、雇用最優先の姿勢を示し「第二の就職氷河期世代」を作らないと提言を発表したそうだ。

経団連は30日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済対策に関する緊急提言案を固めた。

リーマン・ショック時を上回る大規模な対策を検討する政府と足並みをそろえ、雇用の維持に最優先で取り組む姿勢を表明。

「第二の就職氷河期世代を作らない」との方針を打ち出す。

30日にも発表する。

雇用をめぐっては、バブル崩壊後の不況期に企業が新卒採用を絞った結果、30代半ばを過ぎても十分な職業経験を積まないまま不安定な生活を送る氷河期世代を生み出した点を反省。

企業に採用スケジュールの弾力化などで安定的な人材確保を続けるよう働き掛ける。

〔写真〕出典:第二の就職氷河期作らず 雇用最優先、経団連が緊急提言 新型コロナ 時事通信社3月30日

就職氷河期世代にはっきりとした定義はない。

一般的には、1971年〜1974年の団塊ジュニア世代と1975〜1984年生まれのポスト団塊ジュニア世代がおおよそ該当すると言われている。 この世代の人口は非常に多く、男性約1170万人、女性1140万人、合計約2310万人である。

就職先確保に苦労し、就職先があったとしても非正規雇用が一般的だったという経験をした者も多かったのではないか。

私自身、就職氷河期世代の下の方なので、先輩たち、同期の仲間たちの苦しむ様子は今でも苦しい過去として覚えている。

そして、この苦労は就職時だけでなく、低賃金・長時間労働として、生涯続いていくものだということも当時は知らなかった。

該当する世代の方は特にお読みいただきたい。

経団連が就職氷河期世代を生み出したことに反省が見られるのは非常に良いことである。

しかし、提言内容はすでに政権与党の主流派が実施を予定しているもので、足並みも良く揃っているが、経団連自身は何をするのか、具体的なものは相変わらず示されていない。

新時代の『日本的経営』という過去の恐ろしい提言

そして、反省をしたら同じことを繰り返さないだろう、と期待することが普通だが、彼らは何度でも同じ失敗を繰り返すので苦言を呈しておきたい。

経団連(当時は日経連)はバブル崩壊以降、雇用を著しく制限した。

さらに、人件費負担を減らすため、1995年に「新時代の『日本的経営』−挑戦すべき方向とその具体策」を発表した。

「新時代」「挑戦」と勇ましい題名である。経団連は今も昔も日本経済を牽引するカッコいいリーダーたちである。

しかし、この方針は、単に今後、人件費抑制策をとることが書いてあるだけだった。

例えば「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」と労働者を分け、能力に応じた処遇をしていくことも掲げられていた。

そこに当時の労働組合、労働者も騙されてしまった側面がある。

ましてや、正社員と非正社員との間での分断に応じてしまった。

その後に一貫して増えるのは「雇用柔軟型グループ」であり、いわゆる非正規労働者だ。

言うまでもなく、能力など適正に評価する軸もなく、一方的に経営側が能力とは別の理由で、勝手な査定をしていくことになる。

つまり、長時間労働が可能で全国転勤にもすぐに応じ、忠実にいうことを聞く労働者かそれ以外を分けていく作業をする。

労働者に対する実効支配が強まり、それに対して声を上げることも少なくなった。

現在、いかに労働環境が酷くとも、団体交渉やストライキの発生は低調だ。

当然、その後は経団連加盟企業のやりたい放題であり、労働者派遣法に限らず、労働法制も労働者側に傾くことはほとんどなかった。

その成れの果てが現代社会である。

無限に強大な人事権を行使して労働者を使い潰すブラック企業、人件費をコストとして計上された派遣労働や非正規雇用が増やされてきたことはご承知の通りだ。いまや全労働者のうち、約40%が非正規雇用である。

このように、経団連加盟企業では、全体的に人件費抑制の目的を徹底し、日本の雇用を破壊的な状況にして、低賃金、ワーキングプアを増やし、世帯形成すら困難な労働者を大量に生み出している

下請けである中小企業や零細企業への抑圧も著しく、これらの労働者の賃金も低く抑えられ、同様に非正規雇用など不安定雇用が大量に生まれている。

経団連の反省は相変わらずのパフォーマンスである

冒頭で彼らは反省をしない。何度も失敗を繰り返す、と述べた。

まず事実として、現在、新型コロナウイルスの影響から、経団連加盟企業含む労働者は、派遣労働、非正規雇用などを中心に雇い止めや解雇がすでに起こっている。

休業中の労働者に十分な対価さえ支払われていないケースは散見されている。

これは事実であり、一貫して労働者を大切に扱うことはしていない。

当然のことながら、来年以降も急速に求人を絞ることは起こりうる事態だろう。

「第二の就職氷河期世代」になるかどうかは不明だが、間違いなく、今後の雇用は保障しない。

それら労働者には現在、労働組合や労働弁護士が支援に乗り出しており、福祉行政や支援団体も雇用保険失業給付、住居確保給付金、生活支援資金の特例貸付などの制度利用を案内している。

要するに、形式的に反省や振り返りをしても、現実にすでに雇用は切られ始めている。

「机上の空論」を振りかざさず、経団連役員はお忍びで出身企業の生産現場や下請け企業の現場にでも足を運んでみたらいい。

いかに提言が空虚な実態か見えてくるはずである。

「雇用の維持に最優先に取り組む」という分かりやすいウソをこれ以上つかないでほしいし、パフォーマンスは緊急事態に害悪だから、そこそこにしてほしい。 

経団連に期待しても仕方がないー労働組合への相談をー

まず就職氷河期世代は経団連やその提言によって意図して作られた世代である。

そして、労働組合の分断や労働者間の連帯を損なわれている間に作り上げられたものだ。

このような雇用構造は1990年代を境にして形成されている。そして、簡単にこの雇用構造は崩れない。

そもそも、経団連の本音からすれば、なぜいま安い賃金や長時間働かせても文句も言わないヤツらを厚遇する必要があるのか、と思っているだろう。

お決まりの「グローバル競争」で企業も生き残りが大変だから仕方がないと抗弁するのだろう。

内実は政府や日銀に株式市場を通じて、資金提供を潤沢に受けていても関係ないし、表面的にグローバル競争をしていることを装い、積み上がる内部留保の使徒にも言及しない。

本当に「第二の氷河期世代」を作らないと表明するなら、現時点でも苦しい氷河期世代の正社員化や安定雇用化、福利厚生の拡充など、何かを具体的に始めてみてはどうか。

今もすでに起こっている血も涙もない雇用削減、人員整理を真剣に禁止していくべきではないか。

真剣さは当然ながら、労働相談、生活相談の現場にいれば実感しないものである。

要するに、経団連は少し風当たりが厳しくなれば、反省を口にする。騙されてはいけない。

雇用は切るときには容赦なく切るし、他人事でもない。

彼らに心が通っているとも思ってはいけないし、労働者は労働者側で粛々と結集して、働きやすさを求めていくしかないのである。

繰り返すが、現場の労働組合・ユニオン、労働弁護士は現在、福祉行政や支援団体と連携して懸命に相談対応をしている。

本気で労働者の危機を乗り越えようとしている人々と共に歩んでほしいと思っている。


藤田孝典
NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授

社会福祉士。生活困窮者支援ソーシャルワーカー。専門は現代日本の貧困問題と生活支援。聖学院大学客員准教授。北海道医療大学臨床教授。四国学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。元・厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(生活困窮者自立支援法)。著書に『棄民世代』(SB新書2020)『中高年ひきこもり』(扶桑社 2019)『貧困クライシス』(毎日新聞出版2017)『貧困世代』(講談社 2016)『下流老人』(朝日新聞出版 2015)。共著に『闘わなければ社会は壊れる』(岩波書店2019)『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。 


〔swakitaコメント〕藤田氏の指摘は的確である。
経団連は、斜陽の製造大企業らが集まって、従来からの原発依存や官需依存など古い体質の経営者を集めて、新たな分野での技術革新や研究開発などを軽視するをし続けてきた。原発の失敗、原発輸出の失敗、新幹線輸出の失敗・・・等、日本経団連が主導してきた政府癒着の経済政策はことごとく失敗してきた。世界の中で、日本経済のパフォーマンスの低下は目を覆うばかりではないか。
ところが、この30年間、労働法規制緩和という名目で、非正規雇用を増やし、人件費を削減することで、484兆円もの内部留保を蓄えてきた。なぜ、経済政策的な失敗であるのに、こんなに内部留保できたのか、それは労働者を非正規化し、無力化して、労使の力関係を大きく変えてきたからである。労働側の抵抗がない中で、人件費削減による大きな「利益」を得た面が強いと思われる。その代わり、格差、老後不安、ブラック企業、ハラスメント、自殺者増加など、仕事の世界、働く者への犠牲転嫁、雇用社会の劣化をもたらした。その第一の責任は、日本経団連にあると思う。深く反省すべきだと思う。
とくに、情報関係で世界的には大きな成長があるのに、1985年派遣法で情報関係業務を、不安定低劣条件の派遣や請負の形態の労働に追いやってきた。484兆円の内部留保のかなりが、不当な労働者利用による人件費削減の結果と思われる。こうした「非正規雇用形態利用」に対して、特別な利用税を負担すべきである。そして、「氷河期世代」を生み出した大きな責任は、藤田氏が指摘するように、こうした不当な人件費削減で内部留保を蓄積してきた日本経団連にあると言える。
こうした背景事情の下、現在、新型コロナによる未曾有の経済危機が到来しつつある、日本経団連は、大企業のこれまでの利益を代表する組織として、484兆円の内部留保を社会に還元する責任を負っている。口先だけの「氷河期世代対策」で終わらせることはもう許されない。
「金より命」「一部大企業の利潤蓄積より、社会を支えて働くすべての人の安定した生活保障」が重要だ。日本経団連は、いまこそ、これまでの日本の経営者を代表する組織として反省し、深く悔い改めるべき時だ。これまで蓄積してきた膨大な内部留保を、まじめに働きながら報われない大多数の人々のために社会還元するべき時だと思う。
 

この記事を書いた人