五輪関連のアスリート育成組織に「残業一律15時間に改ざん」など悪質な労務管理〈AERA〉 (2/22)

五輪関連のアスリート育成組織に「残業一律15時間に改ざん」など悪質な労務管理〈AERA〉
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AERA 2020/2/22(土) 7:00配信 川口 穣

ハイパフォーマンススポーツセンターは国立スポーツ科学センターや味の素ナショナルトレーニングセンターなどが一体となった組織だ。東京都北区西が丘(撮影/写真部・掛祥葉子)
東京五輪を間近に控え、選手育成にも関わる組織の悪質な労務管理の実態が、アエラの取材で明らかになった。職員への残業代の未払い、勤務時間の改ざん──。職員を欺いた組織の「手段」とは。AERA2020年3月2日号から。

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「オリンピック・パラリンピックを目指すアスリートを支え、最高のパフォーマンスを出せるようサポートするのが私たちの仕事です」

 独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の中核組織「ハイパフォーマンススポーツセンター」の職員のひとりが、そう話す。この組織は、スポーツ医・科学の研究や情報サポート、高度な科学的トレーニング環境を提供する国内最先端のスポーツ施設群。いわば、スポーツ界の叡智の結集地だ。

■残業一律15時間で記録

 そんなメダリスト育成に関わる組織で、ずさんな労務管理と残業書類の捏造が行われていたことがアエラの取材でわかった。ある職員が絞り出すように言う。

「東京五輪が近づき業務量が増えていて、60時間程度残業する月もあります。オリンピックに関われる仕事でやりがいは大きいですが、規定通りの給与を払ってほしいと思っています」

 彼らの給与規定には、「正規の勤務時間外に勤務することを命ぜられた場合には、その勤務した全時間に対して、(中略)超過勤務手当として支給する」とある。しかし、「みなし残業制」との説明のもと、どれだけ残業しても月15時間分の超過勤務手当しか支給されていないという。さらに、職務規定との整合性を取るためか、「超過勤務報告書」や「超過勤務命令簿」などの書類は管理者側が毎月、15時間分で作成していた。

「そもそもタイムカードなどはなく、自己申告すら求められません。つまり、労働時間はまったく管理されていないんです。それでも毎月、適当に作られた超勤書類に捺印させられます」

 この職員によると、月初に前月分の「超過勤務命令簿」が人事担当者から渡される。そこには合計15時間になるよう日々の「残業」が記録されていて、全日分に捺印を求められる。実際の残業時間とは全く一致しないが「ルールだ」と説明され、やむなく従っているという。

 一方、こう話す職員もいる。

「最近まで、自分の残業時間を記した書類があることすら知りませんでした。でも、毎月15時間分の超勤書類が私の名前でつくられていたんです」

 管理者側がこの職員の名前で書類を作成し、本人に提示することなく運用していたのだ。

■ウソの書類作成を強要

 さらに信じがたい事態もあった。ある部署では昨年9月、これまで管理者側で作成していた残業書類を、自身で作成するよう指示があった。労働基準監督署の指導もあり、本部から各部署に対して「適切な取り扱い」が指示されたためという。当然職員は実働時間を記録して書類を提出したが、それに対し、勤怠管理者はこう言い放った。

「あなたは15時間分しか出ないルール。書き換えてください」

 管理者側で作成していたウソの書類を、職員自身に作成させようとしたのだ。そうでなければ「残業代を支払わない」とも。

 労働法制に詳しいウカイ&パートナーズ法律事務所の上野一成弁護士は、こう断じる。

「残業代の未払いは典型的な労働基準法違反ですし、労働時間を管理していないのは労働安全衛生法に反します。さらに、管理者側がウソの超過勤務書類を作成したり偽造を指示したりしていたのなら、そもそも管理する意思がなく、より悪質です」

 指摘に対し、JSC側はどう答えるか。2月19日、人事課長らがアエラの取材に応じた。

「スポーツ庁からの受託事業を担当する70人弱の職員に対して、一律の超過勤務手当を支払っています。一部でご指摘のような取り扱いがあったのも事実です。遺憾に思っております」

 未払い分を含め、新年度に向けて改善策を検討するという。職員たちはメダルを目指す選手と同じように情熱を持って働いていることを、組織は強く認識すべきだ。(編集部・川口 穣)

※AERA 2020年3月2日号 

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