転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代 (3/14)

転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代
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2020/3/14 23:00日本経済新聞 電子版

公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。

人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10〜12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。17年に集計方法などを変えたため単純比較はできないが、登録者数としては2000年のサービス開始以降で最高となった。

同社では全体の登録数は3〜4%増にとどまっており、公務員の登録者の増加は鮮明だ。

公務員の年代別登録者数では、20代が同33%増の7244人と急増した。民間企業の中でも意思決定が速い外資系コンサルタントやITベンチャーに転職する例が多いという。

19年に中央官庁からITベンチャーに転職した30代女性は「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」と語る。有能な若手ほど現状の業務に疑問を感じている可能性が高い。

人事院によると、定年退職や任期満了を除く国家公務員(一般職)の離職者数は3年連続で増加。18年度は前年度比252人増の8893人だった。厚生労働省は18年度の離職者数が16人増の575人(定年退職や出向を除く)。経済産業省では19年度に23人の「キャリア」と呼ばれる総合職が離職した(2月末時点)。例年は15人程度という。

新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。総務省の労働力調査によると、19年の転職者数(月次平均ベース)は351万人となり、比較可能な02年以降で最多を更新した。

民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。19年度の国家公務員一般職(大卒程度)の受験者は初めて3万人を割った。総務省によると全国の都道府県と市区町村の職員採用試験の競争倍率は18年度平均で5.8倍と最低を更新した。

「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」――。19年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。20〜30代の職員の約半数が業務にやりがいを感じている半面、6割が「心身の健康に悪影響」、4割が「やめたいと思うことがある」と回答した。

総務省の働き方改革チームが18年にまとめたアンケートでも「モチベーション高く仕事ができている」との回答(「どちらかと言えばそう思う」を含む)が部長級以上で90%を超えたが、係長級では54%にとどまった。

慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。若手を中心に国会対応で長時間拘束されることや、電話対応などの雑務に時間を割かれることが長時間労働の原因となっている。

有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。(佐藤初姫)
 

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