移民のドイツ国籍取得数は日本の12倍 受け入れに積極的な本当の理由【世界から】 (3/24)

移民のドイツ国籍取得数は日本の12倍 受け入れに積極的な本当の理由【世界から】
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2020/3/24 10:30 (JST) ©株式会社全国新聞ネット

〔写真〕ベルリンで難民と写真を撮るドイツのメルケル首相(中央)=2015年9月(AP=共同)

 中東などから難民がなだれ込んだ2015年からの欧州難民危機をきっかけに、ヨーロッパで高まった「反移民」の動きは依然続いている。そんな中、ドイツは移民や難民の受け入れに意欲的な国の代表格だ。筆者の夫は19年にドイツ国籍を取得。筆者も国籍取得を行政当局から誘われた。国籍取得をきっかけにドイツの移民政策について考えた。(ハンブルク在住ジャーナリスト、共同通信特約=岩本順子)

 ▽市長からの手紙

 「故郷はどこかと尋ねられたら、ハンブルクだとあなたは答えるのではないですか?」。18年のある日、そんな一文で始まる手紙が筆者夫婦に送られてきた。差出人は当時ハンブルク市長を務め、現在はドイツ財務相のオラフ・ショルツ氏。手紙の右上に同氏の顔写真、文末には署名が印刷してあった。

 筆者は1985年から、ブラジル国籍の夫は2005年からドイツ北部のハンブルク市で暮らしている。同市は一市単独で連邦州を構成する特別市で、人口約184万人は首都ベルリンに次いで多い。

 文章は次のように続いていた。

 「長年、ハンブルク市民のあなたは容易にドイツ国籍が取得できます。国籍を取得すれば選挙権や被選挙権が与えられるので、税金の使い道を一緒に決められます。煩わしい滞在許可手続きからも解放され、従来ビザが必要だった国にもビザ無しで行き来できるでしょう。申請するだけでいいのです。国籍取得を決断してもらえるとうれしく思います。市庁舎で行われる国籍取得祝賀パーティーで是非、お目にかかりましょう」

 日本は基本的に二重国籍を認めていないため、ドイツ国籍を取得すると日本国籍を失うことになる筆者は思いとどまった。一方、二重国籍に規制がないブラジル人の夫は申請することにした。ドイツ人になることで3カ月以内であれば日本の観光ビザが不要になる。ビザ取得には労働契約書や給与明細、貯金残高を始めとする多くの書類を提出しなければならない。その手間が無くなるということも決断を後押しした。

〔写真〕2015年9月、ハンガリーの駅で、ドイツに向かう列車の窓越しに笑顔を見せる移民の少女(ロイター=共同)

 ▽手厚いサポート

 ドイツは、ナチス時代に外国人を迫害した反省から外国人を積極的に受け入れてきた。東西ドイツ統一後に財政事情が苦しくなり一時期、制限するなど曲折したこともあった。現在は少子高齢化の影響による人材不足もあって、再び移民に寛容な政策を取り入れている。

 国籍取得が可能となる条件とは何か?

 成人の場合は以下の通り。?8年以上の在住歴?ドイツ語能力の証明?一定の経済力?民主主義制度の尊重を表明すること?犯罪歴がないこと?国籍取得テストに合格すること―だ。

 ドイツ語力の証明には、テストを受けて日常会話や文章を正しく書ければ合格となる。国籍取得テストは08年9月1日から新たに義務づけられた。ドイツの歴史・政治・地理・文化などの一般知識に関する310の設問候補から無作為で抽出した33問が出題される。数個の答えの中から正しい答えを選ばせる多岐選択方式で17問以上正解すれば合格となる。

 テストと聞くと大変そうに思える。だが、ドイツ語能力テストは語学教室に安価で通える支援制度がある。国籍取得テストの設問候補は事前に公開されている。各州が実施する「講座」を受けて準備することも可能だ。

 このほかにも、ハンブルク市と同市のトルコ人コミュニティーが共同で始めた「私はハンブルク市民!」という国籍取得を促進するプロジェクトもある。取得手続きを支援したり相談に乗ったりするもので、経験豊富なボランティアスタッフが「水先案内人」として力を貸している。

 ▽日本の12倍

 18年の統計によると、ドイツの人口は約8280万人で在独外国人はおよそ12%にあたる約1092万人いる。18年に国籍を取得した人は11万2千人を超えている。ハンブルク市でも同年だけで5772人が国籍を得た。

 国別で見ると、トップはトルコの1万6700人。6600人の英国、6220人のポーランドが続く。以前は少なかった英国人が増えているのはブレグジットの影響だ。国籍取得した人のドイツ滞在期間の平均は17・3年という。

 一方、18年の日本在住外国人数は約273万人。人口比では2%程度にとどまる。同年の国籍取得者は9074人。韓国人(4357人)と中国人(3025人)がほとんどを占める。日本より4000万人ほど人口の少ないドイツで、日本の約12倍の外国人が国籍を得ていることになる。

 ドイツでは1972年以降死者数が出生者数を上回る状態が続き、人口減少が危ぶまれていた。しかし、2011年以降は人口が微増し、減少に歯止めがかかっている。移民の積極受け入れだけでなく、長年ドイツに在住する外国人に国籍取得を呼び掛けることで人口を維持しようというドイツ政府の政策は一定の成果を上げていると言える。

〔写真〕国籍取得者の祝賀会はこのような豪華な部屋で開かれる=岩本順子撮影

 ▽盛大にお祝い

 ドイツ国籍を取得した人は祝賀式に招かれる。これはベルリンやハンブルク、ミュンヘンといった大都市から中小都市に至る多くの自治体で行われている。中でも国籍取得者の多いハンブルク市は盛大で数日に渡って式が開かれる。

 夫は19年7月に国政取得が認められた。祝賀式は19世紀末に完成した壮麗なハンブルク市庁舎の中でもひときわ豪華な「大祝祭の間」で同11月に開かれた。市長の祝辞や代表者へ証明書の授与などが行った後、隣接する広間で立食パーティーが行われた。ふんだんに振る舞われるドイツのスパークリングワイン「ゼクト」やおつまみとともに、国籍取得者たちとの語り合いを存分に楽しんだ。

 国籍取得者の晴れ舞台を祝うにふさわしい演出に、ドイツという国が移民をいかに重要視しているかを感じた。
 

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