「技能実習生によるマスクの生産を可能に」岐阜一般労働組合が実習計画の一部変更を要請
巣内尚子 | ジャーナリスト 2020/4/6(月) 16:48
(写真:西村尚己/アフロ)
岐阜一般労働組合は4月3日、マスクの不足に対処するため、日本政府に対し、技能実習計画の一部変更を認めるよう求める要望書を出した。日本の外国人技能実習制度では、技能実習生は技能実習計画にある業務でしか仕事をできない。一方、同労組は、今回の新型コロナウイルスの世界的流行に際し、特例的に技能実習計画の一部変更を認めることにより、技能実習生による布製マスクの生産を可能にするよう求めている。
◇マスクを作りたくても技能実習生は作れない
岐阜一般労働組合の北島あづさ執行委員長は4月6日、筆者の電話取材に対し、「新型コロナウイルスの影響でマスク需要がひっ迫する中、縫製会社には布製マスクの注文が入っている。また縫製会社の経営者からも『社会貢献として布製マスクを作りたい』との声が出ている」と説明した。一方、外国人技能実習制度では、技能実習生は技能実習計画に沿い受け入れ機関(企業)で技能実習を行うが、この際、技能実習生は技能実習計画にある業務以外の業務はできないことになっている。
北島執行委員長は、「縫製会社には材料もあり、人手もある。しかし技能実習生がマスクを生産すれば、それは技能実習計画に違反することになるため、縫製会社はマスクを技能実習生に作らせることができない」と指摘する。
そうした中、岐阜一般労働組合は4月3日付声明で、「縫製分野での外国人技能実習は、婦人子供既製服縫製作業、紳士服製造、下着類製造などと細かく分類」されていることから、「本来は婦人服を作る縫製工場が布製マスクを作ると、外国人技能実習機構から、技能実習計画齟齬との違反を指摘され是正勧告を受ける可能性があるため、作りたくても作ることが許されません」と説明している。
岐阜一般労働組合が4月3日付で出した要望書(提供:岐阜一般労働組合)
その上で、同労組は、技能実習計画上の特例とし、技能実習生が布製マスクの生産にあたることを認めるよう要請。さらに、布製マスクの供給が増えることで、「布製マスクを待っている子どもたちを含む地域社会に貢献し、救える命」を救えると強調。同時に、「私どもは労働組合として、地域の労働者を代表する立場ではありますが、居住する地域のみならず、日本全体を覆う困難な情勢を経営者と共に乗り切るため」技能実習計画の一部変更が認められることを要望するとしている。
◇縫製業に打撃、技能実習生の雇用・賃金維持も課題に
北島執行委員長によると、新型コロナウイルスの流行拡大を受け、百貨店などが営業を停止して売り上げが落ちる中、地域の縫製会社では洋服の受注が落ちこんでいる。日本の縫製部門では、中国やベトナム、カンボジアなどの女性技能実習生が多数就労する。こうしたアジア諸国出身の女性たちが日本の縫製部門では欠かせない労働力となっており、縫製部門を支えてきた。しかし、受注の落ち込みから技能実習生の雇用や賃金の維持が課題になってきているという。
この状況を受け、岐阜一般労働組合は要望書で、技能実習計画の一部変更が認められれば、日本の縫製工場は布製マスクの技能実習生による生産に着手できるとともに、これが技能実習生の雇用の安定と賃金確保につながると説明する。(了)
巣内尚子
ジャーナリスト
ジャーナリスト。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。