非正規全国会議、新型コロナ緊急事態宣言後、寄せられた多くの回答を受け、第2次提言 (5/12)

 非正規労働者の権利実現全国会議(以下、「非正規会議」)は、新型コロナ関連のアンケートを実施し、その結果を基に、5月7日、提言書(第2次)を政府に提出しました。
 3月18日からホームページを通じて、急速に広がる感染症をめぐって、雇用と生活がどのような状況にあるかを把握することが目的のアンケートを実施しました。非正規雇用労働者とフリーランスの方から、3月31日までに予想を大きく越えて全国各地から272件の声が寄せられ、それを基に、4月6日、政府に第一次提言書を提出しました。
 しかし、4月7日、政府が「緊急事態宣言」を発出してから状況が大きく変わりました。休業や仕事の打切りが格段に広がったのです。切実な窮状を訴える回答が4月30日までに249件も寄せられ、総計521件に達しました。
 回答内容は1次と2次でほぼ重なりますが、2次では「正社員は時差出勤やテレワークがあるが派遣社員は通常出勤」(21名)、「新規の仕事がない・客が来ない」(7名)などの声が目立ちました。とくに、「個人請負」で働く方の不安定性と無権利性が深刻であることが特徴でした。

【出所】非正規労働者の権利実現全国会議のホームページ

提言書2

2020年5月7日 

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
財務大臣 麻生 太郎 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
最高裁長官 大谷 直人 殿

非正規労働者の権利実現全国会議          
代表幹事 脇田 滋(龍谷大学名誉教授)
同  中村和雄(弁護士)     
(連絡先)事務局長 村田浩治(弁護士)    
〒590-0048 堺市堺区一条通20番5号銀泉堺東ビル6階
堺総合法律事務所            
℡ 0722-21-0016 fax 072-232-7036
e-mail:murata-koji@nifty.ne.jp

第1 再度の提言にいたる経緯

 当全国会議は、さる4月6日、3月18日から3月30日までに寄せられたアンケートの回答を踏まえて、内閣総理大臣を初めとする所轄大臣あてに、以下の提言をしました。

 1 非正規雇用労働者・フリーランスの雇用・仕事を守ること
 (1)雇用の継続 解雇・濫用的雇い止め禁止
 (2)雇用における休業補償
 (3)フリーランスに対する契約打ち切りの制限、休業(所得)補償
 (4)特に被害の大きい業種についての特別の措置

 2 職場における労働者の安全・健康確保
 (1)医療、介護、福祉、教育などの業種についての特別の措置
 (2)非正規雇用の労働者も含めた全労働者に対する安全確保措置の実施

 3 非正規雇用労働者及びフリーランスを対象とする本格的実態調査の実施上記の提言から 1 ヶ月が経過しました。提言を提出した後も、当全国会議の実施したアンケートには全国からさらなる声が寄せられ続けており、その内容も一層深刻化しています。
 5月4日、政府は、5月末日までに緊急事態宣言を解除することを念頭に、感染拡大の終息の見通しを示すと表明しています。
 しかし、当全国会議のアンケートに寄せられた声に鑑みると現在の政府が示す政策のみでは不十分であり、終息後も提言が実施される必要が増していると考えます。
 特に契約社員、パート労、派遣労働者、フリーランスという正規社員と比べ不安定な就労形態で働いている「非正規労働者」の生活保障の観点から繰り返し提言をする必要があると考えました。
 前回提言以後、4月30日までアンケートに寄せられた具体的な声を発表すると共に、こうした声に応えて労働者の生活を保障し、政策を実現することを強く求める次第です。

第2 緊急事態宣言終息後の経済活動再開にあたっての政府への提言

 1 解雇禁止原則を宣言し、その維持のために現行法を活用すること
 ① 非正規労働者の解雇・雇止め禁止を宣言するとともに、雇用調整助成金制度の補償範囲を拡大し、迅速に給付が受けられる運用をすること
 ② 持続化給付金の適用を受けられない雇用近似のフリーランスに対する契約解除も解雇と同様に契約解除の禁止を宣言すること
 ③ 万一、解雇・雇止めや契約解除を停止出来なかった場合でも、生活保護による支援を早期に実現し、再就労が可能となるよう支援を強めること

 2 一定期間の生活と仕事を安定させるため、一時金に留まらず、他国のような、一定期間の解雇を無効とする法制度を創設し雇用保障を確実にするための法整備をはかること

 3 労働者の休業・安全対策に際して差別的取扱を改めること
 正社員との取扱いを異にする差別的な出勤の指示、感染症対策が労働者派遣法及びパートタイム・有期雇用労働法に反することを通達により示し、雇用主への啓発を進めること

 4 大企業における内部留保金をすべての労働者の雇用確保のために活用すべきことを明確にし、一定の期間を定めて利益配当を禁止するなど、政府が企業収益による資産を労働者の保護に活用することを国の政策として打ち出し、経済活動の回復に際しての方向性を示すこと

 5 権利の回復や保障のための機関である裁判所は適正かつ迅速な権利救済を図れるよう必要な措置を講じながら早急に機能を回復し、迅速な手続きをはかること

第3 提言の理由

 1 解雇等禁止の宣言
 当全国会議は、先の4月6日の提言において、新型コロナ感染症拡大を理由とした解雇はもともと不安定な働き方である非正規労働者にとって大きな影響があることを指摘し、イタリアの例をあげて雇用維持、確保を徹底させることを提言しました。
 アンケートにおいても4月段階では自宅待機となっているものの「将来の雇用継続(雇止めされないか)が不安」という声が少なからずあります。緊急事態終息後に経済の復興のために必要なのは、働く人たちです。そのためには、雇用の維持を何よりも重視することを、政府が示す必要があります。
 しかし、現状は、「コロナだから仕方ない。」「コロナだからやむを得ない」という姿勢の下で安易と思える一方的な解雇が相次いでおり、労働者の生活を破壊し、終息後の経済復興を阻害しかねない状況があります。こうした状況を政府が容認することなく、使用者に対して安易な解雇をさせないよう、雇用維持を断固たる一の政策として、労働者と中小零細事業者への支援と合わせて実行する姿勢を示すべきです。
 こうした観点から、雇用調整助成金の補償額も現行制度を大きく上回る運用とすべきです。
 不安定な就労である非正規雇用やフリーランスで働く人々の生計を維持するためには生活保護の利用があり得ます。しかしながら、生活保護開始の際には資産保有が極めて厳しい基準でしか認められず、一旦、生活保護利用者になると、そこから再び就労生活に戻ることが困難になるという問題があります。自動車保有などに関し一定の要件緩和はなされていますが、さらに要件を緩和するとともに、スティグマを払拭するためにもきちんと広報して、市民が安心して生活できる政策をしっかりと打ち出すべきです。

 2 解雇禁止立法の制定
 新型コロナ問題は、かってない経済危機を生み出し、社会のありようも変える可能性が指摘されています。現行の法制度では、解雇を抑制することは休業自粛と同様に事業主の善意を促すか、せいぜい事業者に対する雇用調整助成金を通じて解雇を抑制する程度に留まらざるを得ません。
アンケートに寄せられた声では、事業主も先が見えない中で、多くの労働者が解雇や雇止めなどの不安に晒されている状況が浮き彫りになっています。
 イタリアでは、「イタリアを治癒しよう(Cura Italia)」という名称の法律命令が施行され、1)家計支援、2)労働者支援を打ち出しています。労働者支援としては、自営業者、独立契約者、公演芸術家、農業労働者など日本でいうところのフリーランスを対象に約83万円もの生計支援金の支給を内容とする支援策を打ち出しています。法律には「発効の日から整理解雇の要件を満たしていてもそれを60日間排除する」「2020年2月23日以降に開始された手続は進行を保留する」という内容を含んでおり、立法措置によって解雇を許さない政策を実施しています。
 日本の緊急事態宣言は自営業者に自粛を要請するのみですが、もう一歩踏み込んで、働く市民の不安を取り除くための立法措置を検討すべきです。
 そうしなければ、この前例のない経済危機に対処できず、格差がそのまま生活破綻につながる現状を解決することは出来ません。安倍総理大臣は全国的な緊急事態宣言に先立つ3月28日の緊急会見において経済政策について、今後、「経済全体にわたって極めて甚大な影響が生じていますが、そのマグニチュードに見合っただけの強大な政策を、財政、金融、税制を総動員して実行していく考えであります。」と表明されました。
 そうであれば、日本においても特に経済を支え生活の安定に直結するる非正規労働者、フリーランスを含む働く人々の仕事と生活を維持するために新たな立法措置を早期に講じるべきです。

 3 労働者の休業・安全対策に際して差別的取扱を改めること
 アンケートでは、正社員は在宅ワークだが派遣労働者だけは出勤を求められているとの声も寄せられています。
 先の提言でも労働安全対策を非正規労働者にも講じるように徹底することを求めていますが、現状は、秘密保持等に難点があるなど、不合理といわざるをえない理由で非正規労働者だけ在宅ワークを認めなかったり、非正規労働者には時差出勤を認めないといった実態があります。
 このような待遇の格差は、現行の労働者派遣法30条の3や短時間勤務労働・有期雇用労働法8条、9条で禁じる不合理な格差でありゆるされません。厚生労働省の担当部署も新聞の取材に同趣旨の回答を行っています(2020年5月1日付毎日新聞)。政府としてもこうした使用者の違法行為を放置せず、その違法性を明らかにするよう通達を発するなど徹底し、使用者への啓発を強めるべきです。

 4 配当禁止措置
 欧州では、コロナ禍の下で、企業の株主配当を休止する措置を講じる動きもあります。欧州中央銀行は3月27日、ユーロ圏の銀行に対して少なくとも2020年10月までは配当を実施しないように求め、自社株買いも中止を要請しました。新型コロナウイルスの感染拡大で経済の急激な縮小は避けられない下で、不良債権の増加も見込まれます。株主への還元ではなく、損失への備えや家計・企業への支援継続を優先させる狙いがあるとの報道がされています(日経新聞3月28日付)。
 わが国の法人企業統計で、2018年度の内部留保(利益剰余金)が7年連続で過去最大の合計463兆1308億円になったとされています(2019年9月2日財務省発表)。一方で、同時期の企業の人件費伸び率は1パーセントとされており(財務省統計)、人件費への還元が十分にされていないことが指摘されています。コロナ問題が経営に影響を与えている今、内部留保金を維持して人件費負担をまかなうことは今後の経済活動を維持拡大する上で重要です。欧州中央銀行の政策に学んでわが国でも株主への配当を中止し、人件費の手当に回す政策を政府として打ち出していくべきです。企業の資産を労働者のために活用することを政策として明確にし、一定の期間を定めて利益配当を禁止して企業収益による資産を働く人々の生活と就労の保護に活用することをメッセージとして示し、経済活動の回復の方向性を示すことが求められます。

 5 権利の回復や保障のための司法機能の維持と迅速な救済を示すこと
 5月3日、最高裁長官は「いかなる状況にあっても適正な裁判を実現していくことが司法の重要な使命であり、最善を尽くす」と述べました。
 現在、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため全国の裁判所で業務が縮小され、多くの裁判が延期されている状態です。当全国会議は相談において新型コロナ感染症を口実にした、無効の可能性がある濫用的解雇・雇止めが少なからず発生していると考えます。雇用調整助成金を活用した雇用維持を検討することなくなされた解雇・雇止めは、裁判手続で争うことによって権利保護をはかることが求められます。解雇禁止の時限立法等の措置がない状況下で迅速かつ適切な裁判による権利保護が必要不可欠です。
 具体的には、裁判手続での接触を回避するIT化による手続の拡大、書面審査で仮処分の判断を示すなど、仮処分手続を簡素化し、かつ迅速に実施できる対策をとるべきです。非正規労働者の生活が立ち行かなくなることがないよう、裁判機能を早急に回復する必要があります。
 先に提言したとおり、政府としても、大規模な調査を実施し、事態の把握に務め、実情に応じた政策を打ち出されるよう重ねて提言します。

以上  

【資料】

非正規全国会議 新型コロナによる仕事・雇用への緊急アンケート 自由記述

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