兵庫県・加西市、非正規公務員にも10万円寄付、よびかけ (2020年6月)

兵庫県・加西市が、10万円の定額給付金を、市長のよびかけで公務員に寄付を呼びかけました。使用者が、労働者に寄付を強要することは本来できません。自由意思で寄付をお願いすること自体に問題があり、広島県知事は寄付を求めるとした自身の発言を取り消しました。定額給付金の趣旨などの点でも問題があると思います。
しかし、その後、加西市では、正規公務員だけでなく、非正規公務員(会計年度職員)にまで寄付を呼びかけていることが分かり、さらに大きな問題なっています。

10万円の寄付呼びかけ、非正規職員にも 兵庫・加西市(2020.6.23 朝日新聞)

新型コロナウイルス対策の原資として約600人の正規職員から国の特別定額給付金(1人10万円)と同額の寄付を集めることを想定した予算を組んだ兵庫県加西市が、非正規職員500人余りにも寄付を呼びかけていたことがわかった。市は寄付を「強制ではない」と強調するが、正規職員に比べて立場の弱い非正規職員にも対象を広げていることを疑問視する声が市内部から出ている。

「非正規公務員」の著書がある地方自治総合研究所の上林陽治研究員の話 新型コロナウイルス対応で、正規・非正規に関係なく公務員の長時間労働が常態化している。人減らしも進み、現場はぎりぎりの状況だ。公務員が率先して身を切り、寄付を差し出すべきだという発想は、今の現実に即していない。非正規職員が担う職種は保育士や看護師など市民の生活や健康を維持するために欠かせない。在宅勤務もできない最前線で、少ない給与で踏ん張る非正規職員にも寄付を求める施策が妥当なのか、加西市は再検討すべきだ。

10万円給付寄付に反発の声 加西市が市立病院職員に再要請(2020.6.18神戸新聞)

全ての市職員に新型コロナウイルス対策で交付される特別定額給付金を寄付するよう依頼した兵庫県加西市で、市立加西病院の職員に寄付が重ねて要請されていたことが17日、分かった。通知を周知するためとするが、コロナ対応で負担が増した医療従事者への再びの要請で「より強制に感じる」と反発の声が上がっている。

財源は職員の10万円 兵庫・加西市が寄付前提にコロナ基金新設(2020.05.28東京新聞)

ほかの自治体でも「十万円」をあてにした動きが出ている。
 広島県の湯崎英彦知事は四月二十一日の囲み取材で「(新型コロナ対策に)必要な財源が圧倒的に足りない。十万円を活用することを検討したい」と発言。職員から十万円を召し上げるという受けとめが広がり、翌日に「言葉の使い方が悪かった」と軌道修正した。奈良県の荒井正吾知事は四月二十三日の定例記者会見で、臨時県議会に提案する新型コロナウイルス対策基金に「県民が特別定額給付金を寄付してもいい」という趣旨の発言をした。
 どの自治体も寄付は強制でないと強調する。しかし、職場のトップに求められれば圧力を感じる人もいるだろう。加西市に至っては「ボーナス天引き」という寄付方法まで示している。

全職員から10万円寄付前提でコロナ予算 兵庫・加西市(2020.05.27朝日)

兵庫県加西市が新型コロナウイルス対策の財源として、正規の全職員(約600人)から10万円ずつを寄付形式で集めることを想定した予算を組んだ。全国すべての人に一律10万円を配る「特別定額給付金」をあてこんだ取り組みで、市は任意とするが、職員から「半強制的な寄付だ」と反発の声が出ている。給付金をめぐっては、加西市以外にも自治体職員に寄付や負担を求めようとする動きが各地で出ている。

10万円寄付なしでも「不利益な扱いせず」 加西市長(2020.5.27 朝日)

【S.Wakitaコメント】
労働法的には、強い立場の使用者が、弱い立場の労働者に寄付を強制することは労働者保護の趣旨に反すると言える場合が少なくないと言える。こうした趣旨に基づいて、労働基準法は、賠償予定の禁止(16条)、前借金相殺の禁止(17条)、強制貯金の禁止(18条)を規定している。使用者が求める寄付について明文の禁止規定はないが、それが強制である場合は、違法の疑いが生ずる。
なお、6月1日施行から、パワハラ防止法(=労働施策総合推進法第30条の2)が施行されており、労働者に寄付を強制することが、場合によってはパワハラに該当することも考えられる。
 第30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。


この加西市の件で、白井のりくに氏が次のような指摘をされており、注目される。
職員に10万円の寄付前提で予算を組むことは、地方財政法第4条の5に反し、違法ではないか
では、加西市が、新型コロナウイルス感染症対策基金費として7750万円を計上し、そのうち6050万円が新型コロナウイルス感染症対策費寄付金からとしていることは、「約600人の市職員に対し、10万円ずつの寄付をするという割り当てがされていると考えられる」とし、これは、地方財政法の以下の条文に反し、違法であると主張されている
地方財政法 第4条の5 
「・・・地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない。」


なお、自治会費に寄付金を上乗せしたことが憲法違反に当たるかが争われた事件(滋賀県甲賀市南町希望ヶ丘自治会事件)がある。寄付金上乗せが、思想・良心の自由等を侵害するとする原告の訴えを認めた大阪高裁判決(2007年8月24日)があり、2008年4月3日最高裁が自治会側の上告を棄却している。

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