奈良学園大事件裁判関連情報 (2020.7.21)

奈良学園大事件の教員解雇をめぐる裁判で奈良地裁が、7名のうち5名について解雇は違法であるとの判決を下しました。
私自身、私立大学で働いて、労働組合の仕事もした経験から、大学理事者には労働法の考え方に疎い人が少なくないと思うようになりました。関西でも、主要大学であるのに労働契約法などによる有期雇用教員の無期転換を無視したり、36協定締結などの基本的な労働法規制を知らない例が見られます。Asu-netが支援している学校法人関西大学事件は、教員の長時間労働について労働基準監督署による指摘を受けた事例です。「大学だから労働法を守っている」と思い込むのは間違いです。
こうした大学における労働法に違反する労務管理の事例の一つが奈良学園大事件です。この事件の報告集会に参加した経験もありますが、その時には、大学側が法を無視した一方的な措置をしていると思いました。その事件で、最近、奈良地裁が、解雇をめぐって大学側の措置が違法であることを認める判決を下しています。
関西では追手門学院事件でも、今年3月、大阪地裁が、労働側勝訴の判決を下しています。今回の奈良学園事件は、大学側の労働法無視の労務管理に対する歯止めになると思います。(S.Wakita)

奈良地裁が、2020年7月21日、教授ら7名の解雇・雇い止めについて5人の解雇が違法・無効であるとの判決を下しました。関連した新聞記事です。

しんぶん赤旗 2020年7月23日(木)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-07-23/2020072304_05_1.html
奈良学園大の解雇無効 教授ら“労組結成の成果” 地裁判決

(写真)勝訴判決を受けた原告団ら=21日、奈良地裁前

 奈良地方裁判所(島岡大雄裁判長)は21日、奈良学園大学(奈良県生駒郡三郷=さんごう=町)の教授らが解雇・雇い止めされた事件について、教授ら7人のうち5人の解雇が違法・無効であったとする判決を言い渡しました。

 判決は、学校法人奈良学園に対して、正規雇用の5人の労働契約上の地位を認め、未払い賃金・賞与の総額約1億2千万円以上を支払うよう命じました。一方で、定年後再雇用の2人については雇い止めに合理性があるとして原告の主張を認めませんでした。

 本訴訟の原告団、弁護団、支援団体らは同日、記者会見を行い、同学校法人に対して「本判決を真摯(しんし)に受け止め、控訴することなく、原告らを大学教員として奈良学園大学に復職させ、解雇・雇い止めをめぐる紛争を全面的に解決」すべきだとする共同声明を発表しました。

 弁護団の鎌田幸夫弁護士(北大阪総合法律事務所)は「大学教員としての雇用を守る責任を重くみた判決。原告の主張をかなり認めた。ほぼ全面勝利」と判決の意義を強調しました。

 原告の教授らは「労働組合をつくり、関西私大教連、奈労連に支えられてたたかってきた。弁護団の強力な弁護によって概ね認められた」と感謝の意を表明。「教育機関ではあるまじき理不尽な解雇。やりたい放題を許してはならない」と述べ、全面解決に向けた決意を表明しました。

原告、弁護団、支援労組の判決についての声明です。

声明

 1 判決の趣旨

 奈良地方裁判所(裁判長島岡大雄、裁判官千葉沙織、裁判官佐々木健詞)、本日、奈良学園大学の教授ら7名が平成29年3月末で解雇・雇止めされた事件について、教授ら7名のうち5名に対する解雇が違法・無効であったとして、学校法人奈良学園に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、平成29年4月以降の未払賃金・賞与として総額1億2000万円以上を支払うよう命ずる判決を下した。なお、定年後再雇用であった2名については雇止めを有効とした。

 2 本件整理解雇・雇止めに至る経緯

 原告らは、学校法人奈良学園が運営する奈良学園大学(旧・奈良産業大学)の教授、准教授、講師であった。
 学校法人奈良学園は、平成23年頃、学部の再編を計画し、人間教育学部、保健医療学部及び従来のビジネス学部・情報学部の後継学部としての現代社会学部を新たに設置することを計画した。しかし、平成25年8月時点で現代社会学部の設置申請が取り下げられると、学校法人奈良学園は、ビジネス学部・情報学部教授会への事前の説明に反して、両学部について学生募集を停止し、平成29年3月末までに両学部所属の教員ら全員を転職又は退職させようとした。
 この方針に反対した原告らは、平成26年2月に労働組合を結成した後、奈労連一般労組にも加盟し、奈良学園大学において大学教員として雇用を継続することを求めてきた。
 しかし、学校法人奈良学園は、現代社会学部に代わる社会科学系の学部(第3の学部)の設置を一旦は検討したものの、その後、不合理な理由でその設置を凍結・延期し、組合が求めた「教育・研究センター(仮称)」の設置を真摯に検討せずに、大学教員として原告らの雇用を継続するための努力をしないまま、最終的には、平成29年3月末、労働組合員を含む教員らを解雇・雇止めにした。

 3 判決の意義及び内容

 本判決は、学部再編を理由とする解雇について、整理解雇法理を適用し、人員削減の必要性は高かったとはいえず、解雇回避努力を尽くしたものといえないとして、解雇を無効としたものである。少子化等による経営悪化を口実に全国の大学で安易な統廃合が行われる中、学校法人に対して教員らの雇用継続について責任ある対応を迫るものとして、大きな意義がある。
 すなわち、本判決は、①人員削減の必要性については、ビジネス学部・情報学部の募集停止により学生らがほとんどいなくなったため教員が過員状態になったとはいえ、被告は資産超過の状態にあって、解雇しなければ経営破綻するといったひっ迫した財政状態ではなかったと判示した。また、②解雇回避努力については、原告らを人間教育学部や保健医療学部に異動させる努力を尽くしていないことや、総人件費の削減に向けた努力をしていないと判示した。さらに、③人選の合理性については、一応は選考基準が制定されてはいるものの、これを公正に適用したものとは言えないと判示した。また、④手続の相当性についても、組合と協議を十分に尽くしたものとは言えないと判示した。
 学校法人奈良学園は、本判決を重く受け止め、原告らを直ちに大学教員として復職させ、本件解雇・雇止めをめぐる紛争を全面的に解決するべきである。
 なお、本判決は、教授らのうち定年後再雇用であった2名については、有期雇用が更新される合理的期待があったものと認めつつも、人員削減の必要性があるなか有期雇用の労働者を優先的に雇止めすることも合理性があるとしたが、この点は遺憾である。

 4 原告らの要求と決意

 学校法人奈良学園は、本判決を真摯に受け止め、控訴をすることなく、原告らを大学教員として奈良学園大学に復職させ、解雇・雇止めをめぐる紛争を全面的に解決し、奈良学園大学が本来の大学としての役割を果たすことができるようにすべきである。私たちは、本件の全面的な解決に向けて、引き続き奮闘する決意を表明する。

2020年7月21日
             原告団 弁護団 奈労連一般労組 関西私大教連

裁判提訴の段階で原告弁護団の西田陽子弁護士の報告記事です。民法協HPより

奈良学園大学事件・提訴報告
                      民主法律時報 2017年05月15日
                    弁護士 西田 陽子

平成29年4月25日、被告学校法人奈良学園(以下、「被告法人」という。)によって同年3月31日をもって解雇・雇止めされた(以下、「本件解雇雇止め」という。)奈良学園大学教員8名が原告となり、奈良地方裁判所に提訴した。また、提訴の約2週間前である同年4月13日に、原告らは、奈良県労働委員会に対して、被告法人による不当労働行為に対する救済申立て(支配介入、不利益取扱い)を行った。

本件は、被告法人が過去に起こした不祥事等により、奈良学園大学ビジネス学部・情報学部の後継学部として設置する予定であった現代社会学部の設置申請を取り下げざるを得なくなり、現代社会学部の設置が不能の場合にはビジネス学部・情報学部の募集を継続するとしていた付帯決議を削除し、両学部教員を整理解雇する方針に急遽転換したという事案である。

原告らは、奈良学園大学教職員組合を結成し同法人と団交を続けていたが、議論は平行線であった。その後、奈良学園大学教職員組合の組合員は、奈労連・一般労働組合に個人加入し、労働委員会におけるあっせん及び団体交渉を続けた。しかし、被告法人は、労使双方が受諾した「労使双方は、今後の団体交渉において、組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する」というあっせん合意に反し、「事務職員への配置転換の募集に対するお知らせ」と題する書面を配布したり、本件解雇雇止めの通知を一方的に送付したりした。

本件のもう一つの特徴は、被告法人が、現代社会学部設置の計画が頓挫した後も、社会科学系の学部である「第三の学部」の設置を模索しており、これを一方的に凍結して原告らに対して本件解雇雇止めの通知を行った後、再び「第三の学部」の設置を検討し始めたということにある。この事実は、原告ら組合員を排除する目的の表れであり、また、解雇回避努力を尽くしていないことの表れでもある。

原告らの専門性を活かす場としての教育・研究センター(仮称)の設置についてまともに検討しなかったこと、他学部への配置転換を認めなかったことなども、被告法人が解雇回避努力を尽くしていないことの裏付けとなる。

さらには、被告法人は、既に本件解雇雇止めを通告されていた原告らに対して、平成29年3月下旬になって、突如非常勤講師として出講することを打診したが、その後撤回した。当該打診は、被告法人にとって原告らを解雇雇止めする必要性がないどころか、被告法人の大学運営にとって不可欠の人材であることを示している。

以上のような事実関係を前提に、訴状においては、①原告らに対する解雇及び雇止めの本質は、組合嫌悪の不当労働行為に他ならないこと、②だからこそ、整理解雇の4要件(要素)も満たしていないことを、主張した。

訴状提出後、同年4月25日午後1時より、佐藤真理弁護士、山下悠太弁護士、原告らが記者会見を行い、被告法人による不当労働行為及び整理解雇の不当性を訴えた。原告である川本正知教授は、記者会見において、被告法人が欺瞞的大学再編を推し進め、その大学再編を口実として、大量の不当整理解雇をおこなったことに対する経営責任が厳しく追及されなければならない、また、特定の教員の解雇を目的とした学部・学科廃止は絶対に許されることではない、と述べた。また、川本教授は、労働運動に対する不当きわまりない攻撃であり、労働三権の否定であって、これはまさに、憲法の保障する基本的人権の侵害であることも主張した。

杜撰な経営を行ってきた被告法人によって、被告法人の発展に寄与し、正当な組合活動を行ってきた原告らの権利が脅かされるようなことがあってはならない。組合の粘り強い団交の結果、被告法人は、ついに、原告らを非常勤講師として雇用する意向を示した。

本件は、執筆者にとって初めての本格的な労働事件である。先輩弁護士の背中から大いに学び、原告らとともに熱意をもって戦うことで、早期に事案が全面解決されることを切に望む。

(弁護団:豊川義明、佐藤真理、鎌田幸夫、中西基、西田陽子、山下悠太)

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