教員の働き方考・文科省「#教師のバトン」プロジェクト

 3月26日、文部科学省はTwitterなどで「#教師のバトン」プロジェクトを始めた。全国の学校現場の取り組み、教師の想いを社会に広く知らせ、教職を目指す学生等の参考にしてもらう目的である。同省の専修学校教育振興室は「質の高い教育環境を確保するため、教職を目指す学生に向けて現役の方がさまざまに工夫をして頑張っている姿を知ってもらいたいです」と主旨を説明する。 (キャリコネニュースhttps://share.smartnews.com/o8fP)

しかし、同省の思惑とは違うTweetがあちこちから寄せられているようである。

内容は教員の過酷な労働環境に関するものが多く、「バトン」といえるものかどうか、疑問の声が上がっている。

「初任の頃、全国レベルの部活動の顧問が転勤し、誰も後任をしたがらなかった。困った管理職が目をつけたのが一番若かった私。やったことのない種目の指導はまさに地獄。一年間で1月1日と8月15日しかきちんとした休みが取れなかった。一年間で2日しか休めなかった地獄の日々でした」(「かっぱ巻き」さん)

「一年間で2日しか休めなかった」とは、明らかに異常な状態である。関西大学中等部高等部の労働時間調査で、年間残業時間が2000時間を超える先生がいたことが発覚したが、この「かっぱ巻き」先生の年間残業時間は何時間になるのであろうか。

まず、月曜日から金曜日までの労働時間を推測すると、朝練や放課後の部活動の残業が朝練1時間、放課後5時以降で2時間と考えると、3✕5時間、さらに土曜日の午後は6時間程度の部活動による残業が予想される。日曜日は朝から夕方までとして、8時間程度の休日出勤が考えられる。これだけで週29時間の超過勤務である。単純に月120時間程度の残業となる。これが12ヶ月なので、1440時間の残業になる。しかし、これは部活動のみを考慮した残業時間である。これに教材研究、教材作成の時間が加えられる。当然、全体がこの1.5倍程度の残業時間となる可能性がある。つまり、関西大学中等部高等部で発覚した、年間2000時間の残業時間となっている可能性は十分にある。過労死ラインと言われる月80時間を軽く超えていることがここに吐露されているのである。このような先生は全国に沢山いることは想像に難くない。

 また、「自分の子どもには絶対に教員になってほしくない」というTweetも見られる。このTweetも教員あるあるであろう。かく言う筆者も、自分の子どもが「お父さんみたいに先生になりたい」と言った時に、「止めておきなさい」と、教員の仕事の長時間労働の詳細について話したことがある。教員経験者なら、同様の体験をした方が少なくないと思う。もちろん、努力に対し、報われることも多い。生徒との関係性は何事にも代えがたい。十年経っても二十年経っても、今だに付き合いのある卒業生は多い。思い出話の中に感謝の言葉をもらうと教師冥利に尽きると思うこともある。しかし、そのような仕事のやりがいと、日々の長時間労働を天秤にかけるようなことは、明らかにおかしい。一方で教師の子どもは放ったらかし、と言われることもよくあることである。自分の子どもより生徒を優先した結果と、揶揄されることもある。こういうことは、負のバトンであることは、教員自身が意識しなければならない。

 さらに、バトンについて「若い先生におなじような思いをしてほしくない」というTweetが相次いでいるようである。「3年勤めて精神疾患になりました。土日休めない。毎日残業。毎月90時間近くの時間外労働。死にたいってずっと思ってた。」と「りんご」先生。教員の精神疾患については、報道されていることも多い。精神的に削られる職場であることは周知の事実となってきた。そういう意味で、このバトンプロジェクトは、これまで報道されなかった生の先生方の声を届ける役割を果たしている。もちろん文科省はそのことを意図していないが。

 キャリコネニュースによると、「同省の専修学校教育振興室はこうした声を受けて「当初から長時間勤務や部活動による厳しい勤務実績があることは想定していましたが、改めて多いと実感した」」とコメントしている。

 「想定していました」という表現に文科省の役人の無責任さを感じるのは私だけであろうか。本来、文部科学省は教員の勤務実態を把握する役所である。「想定」ということは、教員の仕事量や実態を把握していなかったということである。勤務実態を把握せず、教員の給与を規定し、予算措置を行う、あまりに無責任なコメントに呆れるばかりである。このコメントを穿って見ると、実は知っていたけれども、「想定していた」と曖昧な表現をした、ということも考えられる。いずれにしても、いかがなものか、という感である。

 そうは言っても、文科省がこのようなプロジェクトを立ち上げてくれたおかげで、これまでつぶやくことがなかった先生方の真のつぶやきが、文科省のお墨付きを得て日の目を見たことは評価に値する。このプロジェクトで明らかになったことを文部科学省が真剣に捉え、教員の職場環境の改善に役立てることが望まれる。

 ただ、文科省の担当者は「厳しい中であっても、前を向いて頑張る姿を後押ししたい」(キャリコネニュース)と言っている。悲痛な声から分かる厳しい環境を是正することに触れずに、「頑張る姿を後押し」するというずれた感覚は、あまりに鈍感である。過労死する先生が相次ぎ、教員のなり手がいなくならないとこの国の行政は改まらないのか、と暗澹たる気持ちになったのは私だけであろうか

 さらに、萩生田光一文科相が30日の会見で「願わくば学校の先生ですから、もう少し品のいい書き方をして欲しいなっていうのは私個人としてはでございます」と発言した、とのことである。(キャリコネニュース)この発言、教員の長時間労働を所管する大臣として、適切と言えるのだろうか。

朝日新聞に関連記事が掲載されました。

https://www.asahi.com/articles/ASP3Z4CLVP3YUTIL057.html

この記事を書いた人

伏見太郎