4月28日は「労働安全衛生世界デー」

 4月28日は、労働安全衛生世界デー(World Day for Safety and Health at Work)です。以下のようなTWをアップしました。

国際労働機関(ILO)は、このグローバルイベントを位置づけて、4月14日に「Enhancing social dialogue towards a culture of safety and health: What have we learned from the COVID-19 crisis?(安全と健康の文化に向けた社会的対話の強化。COVID-19の危機から何を学んだか?)」という報告書(69頁、英文)を公刊して世界各国に重要な問題提起をしています。
 この報告書で提起されていることは、使用者(企業)と労働者が社会的対話を通じて、職場で、危険について恐れずに指摘できるような安全衛生文化を構築する必要です。最近、エッセイ(第70回 臥床断想② Amazonでの労働組合結成のニュースを聞いて(上))で書いた世界的巨大企業アマゾン(Amazon)の職場環境は、このILOの提起する、あるべき職場とは対極的なものと思いました。
 その「目次」と「はじめに」だけですが、その仮訳は、以下の通りです。


目次

▲ はじめに 1

▲ 1.なぜ職場の安全や健康についての懸念を表明することが重要なのか?7
1.1 社会的対話とは何か?7
1.2 OSH に関する ILO 基準の中核をなす参加と協議 11
▲ 2. 国家レベルでは:予防的安全衛生文化の構築におけるソーシャル・パートナーの役割 13
2.1 社会的対話を通じて OSH に関する効果的な政策および規制の枠組みを実施する 13
2.2 機能する三者構成組織による協議と協力の確保 18
2.3 ソーシャルパートナーの活動 22
▲ 3. 職場レベル:効果的な OSH 管理のための使用者・労働者の協力 29
3.1 安全で健康的な労働環境の確保:使用者、労働者、労働者安全衛生代表の役割 29
3.2 職場における効果的な協力の確立:合同 OSH 委員会の重要な役割 36
3.3 社会的対話に基づく OSH マネジメントシステムとポジティブな OSH 文化の促進 38
▲ 4. 危機時および危機後の OSH を促進するための社会的対話の強化 49
▲ 参考文献 52
▲ 付属書:リソースとツール


はじめに

 毎年約290万人の労働者が労働災害や職業病により死亡し、少なくとも4億200万人が非致死性の業務上傷害(non-fatal occupational injuries)を負っている[1]。
 WHO/ILO共同推計では、特定の危険因子と健康結果の41組を調査した結果、業務上の疾病が業務上の死亡者全体の81%を占め、業務上の負傷による死亡が残りの19%を占めた[2]。
 死亡者数が最も多い職業的危険因子は、長時間労働への曝露(関連死亡者数745,000人)であり、次いで粒子状物質、ガス、ヒュームへの曝露(関連死亡者数450,000人)であった。[3]
 労働災害と疾病は、被害者とその家族に計り知れない人的被害を与えるだけでなく、企業や経済全体にも大きな経済的損失をもたらしている。これは、医療費、補償費、生産上の損失、労働能力の低下、労働者参加の低下などの観点で測定できる。労働災害と疾病は、世界の年間国内総生産(GDP)の5.4%を喪失する原因になっていると推定されている[4]。目に見えない費用は、経済的影響を拡大する方向に寄与しており、これにはプレゼンティズム(作業効率の低下)、永久障害に伴う生産性損失、離職コスト(熟練スタッフの喪失など)などが挙げられる(Tompa et al.)
 142カ国の3億人以上の労働者にインタビューしたところ、安全上の問題を恐れずに使用者に報告することができないと感じると回答している。このような報告が欠如することは、恐怖による予防可能な重大な傷害につながる可能性がある5。
 逆に、労働者のエンゲージメントが高い職場では、安全事故が64%、入院が58%少なかったと報告されている。(Harter et al., 2020)。労働災害や疾病の予防に適切な優先順位を与え、労働安全衛生(OSH)に適切な投資を行うことは、持続可能な経済に貢献し、それによって健康な労働力を確保し、生産性の高い企業を支援することになります。

 そのためには、2006年の労働安全衛生促進枠組条約(No.187)で定義されているように、あらゆるレベルで予防的な安全衛生文化を創造することが不可欠である。つまり、あらゆるレベルで、安全で健康的な労働環境に対する権利が尊重され、政府、使用者及び労働者が、定められた権利、責任及び義務の体系を通じて安全で健康的な労働環境の確保に積極的に参加し、そして、予防の原則が最も優先される。
 予防的な安全衛生文化を推進するためには、職場レベルと国家レベルの両方での取り組みが必要である。国家レベルでは、すべての関連省庁を含む政府全体で、予防的な安全衛生文化の構築と維持に取り組み、労働者の健康と安全が国家課題の優先事項とみなすことが極めて重要である。OSHに対する一般的な認識、危険とリスクに関する知識、それらの予防と制御に関する理解を深めるために、十分な手段と資源が割り当てられる必要がある。
 安全で健康的な労働環境に対する権利があらゆるレベルで尊重される。そして、あらゆるレベルで、政府、使用者、労働者が定められた権利、責任、義務のシステムを通じて安全で健康的な労働環境の確保に積極的に参加し、予防の原則が最優先される。
 予防的な安全衛生文化を推進するためには、職場レベルと国家レベルの両方での取り組みが必要である。国家レベルでは、すべての関係省庁が関与して、政府全体として予防的安全衛生文化の構築と維持に取り組み、労働者の健康と安全が国家課題の優先事項であることを保証することが極めて重要である。労働安全衛生(OSH)に対する一般的な意識、危険とリスクに関する知識、それらの予防と制御に関する理解を深めるために、十分な手段と資源を割り当てる必要がある。
 有意義な社会的対話と三者構成による国家の取り組みは、予防的な安全衛生文化の基礎となり、その役割は、労働における安全と健康の持続的な改善を促進することである。
 社会対話を通じて、三者構成員は労働安全衛生(OSH)の意思決定プロセスのすべての段階に積極的に参加する。その範囲は、持続的で新たな労働安全衛生(OSH)の課題に対処するための労働安全衛生(OSH)政策と規制の枠組みの開発・改訂から、職場レベルでのコンプライアンス・メカニズムの促進まで多岐にわたる。実際、社会的対話は労働安全衛生(OSH)政策と戦略の質向上に貢献するだけでなく、オーナーシップとコミットメントを構築する上で重要な役割を果たし、その結果、迅速でより効果的な実施への道を開く。
 予防的な安全衛生文化を醸成するためには、職場レベルでの取り組みも不可欠である。そのためには、労働安全衛生(OSH)規則を遵守し、労働安全衛生(OSH)管理システムを導入ともに、積極的な労働安全衛生(OSH)文化を実現するための文化の改革が必要である。
 労働安全衛生(OSH)管理システムを企業の一般的な管理体制に組み込むことは、危険を管理し、業務上の事故や病気を減らすための鍵になる。これは、労働安全衛生(OSH)に対する予防的かつ積極的なアプローチを促進し、継続的改善を基本としている。このアプローチで実施される対策は、労働安全衛生(OSH)のパフォーマンスを向上させ、事業の生産性を反映する他の側面の改善にも貢献する。
 しかし、その有効性を確保するためには、労働安全衛生(OSH)管理システムの導入は、安全で健康的な労働環境に対する権利が、経営者と労働者の双方によって評価・促進される、前向きな労働安全衛生(OSH)文化によって支えられる必要がある。このような文化は、すべての関係者が職場の安全衛生条件の継続的な改善に有意義に関与する「包摂の原則(he principle of inclusion)」に基づいて構築される。
 積極的な労働安全衛生(OSH)文化のある職場では、労働者は職場で生じ得る労働安全衛生(OSH)のリスクや危険について懸念を表明することに抵抗がなく、経営者は適切で効果的かつ持続可能な解決策を見つけるために、労働者らと協力することに積極的である。この過程では、信頼と相互尊重に基づいたオープンなコミュニケーションと対話が必要である。
 最近のデータでは、職場で協力的な労働安全衛生(OSH)文化を確立することが、労働関連の事故や疾病を減らすという点で良い影響があることが裏付けられている。
 ロイドレジスター財団(Lloyd’s Register Foundation)の世界危険調査( World Risk Poll)によると、労働者が職場で深刻な負傷を負う可能性は、安全上の問題を使用者に自由に報告できないという、彼らの意見と強く相関している。
 逆に、労働者の参加を保証する仕組みがある職場では、労働安全衛生(OSH)管理慣行、労働安全衛生(OSH)パフォーマンスの向上、事故や負傷率の減少、そして最終的には生産性の向上が見られる(Walters et al.、2012)。

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