【非正規春闘】ABCマートでたった1人の非正規がユニオンに入り、約5000人の非正規労働者の賃金を上げた

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■物価高騰の中、断行された大手企業の賃下げ

 今年1月に、靴小売最大手「ABCマート」で働くパート、アルバイトのうち約500人が一斉に賃下げになるという衝撃的な出来事が起きました。非正規を対象として、新しい賃金評価基準(その査定の項目は34に及んでいました)が導入されたことが理由でした。これを撤回したいという思いから、47歳のアルバイトの女性Aさんが個人加盟労組「総合サポートユニオン」に加わりました。同社で約9年勤務してきた彼女は時給が20円引き下げられており、周りの同僚たちも賃下げに苦しんでいたそうです。

 この春、物価高騰によって、大企業の賃上げが注目されています。しかし、非正規の多くがその「恩恵」に預かれていません。イオングループにおけるパート労働者40万人の7%賃上げが話題を集めましたが、かなりの例外でした。それどころか業界最大手のABCマートでは、容赦なく非正規の査定が強化され、その結果少なくない人数の賃下げが断行されたのです。

 Aさんが加入したことで、総合サポートユニオンはABCマートと団体交渉を行えることになります。しかし、生活を困窮させる賃下げは、一刻も早く止める必要があります。本社への申し入れに続いて、街頭宣伝活動やストライキ通告、記者会見を矢継ぎ早に行い、社会的に訴えた結果、第一回の団体交渉において、対象者500人の賃下げは無事に撤回され、1月以降に賃下げされた分も払い戻されることになりました。これは最初の「勝利」でした。

■たった一人の声から、非正規5000人の賃上げへ

 しかし、それだけでは問題は解決しません。マイナスが元に戻っただけで、インフレに対応する賃金になったわけではないのです。時給10%アップを目指し、Aさんとユニオンは団体交渉を続けました。Aさんの同僚1名もユニオンに加わりました。

 会社は当初、ユニオンの要求に対して、賃上げを渋っていました。第2回団体交渉で出された回答は「5%賃上げ」。しかし、2人の組合員はあきらめませんでした。インターネットで団体交渉の経過を発信し、Aさんは店舗でストライキも実施しました。そして、第3回団体交渉での粘り強い話し合いの結果、ABCマートから、全パート・アルバイト約5000人の賃金を「6%」引き上げる回答を得ることができました。たった一人から始まった声が、大企業をこれほどまでに動かしたのです。
 今年、総合サポートユニオンも加わる「非正規春闘」が注目されました。中高年女性や学生アルバイト、外国人労働者など、これまで労働組合において主流とはみなされてこなかった労働者たちが中心となって、16の労働組合が33社に賃上げを要求した取り組みです。いまや非正規労働者は、職場においても基幹的な業務や責任を任され、世帯においても重要な稼ぎ手になっています。非正規労働者が「助けられる存在」ではなく、自分たちが闘って企業や社会を変えていく、労働組合運動の重要な担い手になっていくことが期待されます。

 その中でも、ABCマートに対するAさんたちと総合サポートユニオンの闘いは象徴的ではないでしょうか。それまで労働組合に全く縁がなく「テレビの中の存在」だと考えていたAさんが、苦しさを増す生活困窮と、企業の理不尽さに対して勇気を出して声を上げたことから、この運動は始まっています。

 しかもこの闘いは、企業の賃下げを覆し、2人だけの組合員が全非正規の賃上げを勝ち取るに至るという勝利に終わりました。個人加盟のユニオンは、労働者の個人的な権利救済の機関として捉えられがちです。しかし、たった一人であっても、その運動を社会的に発信しながら闘うことで、個人や職場を超えた影響力を持つことができるのです。(総合サポートユニオン執行委員・NPO法人POSSE理事 坂倉昇平)

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※参考記事

今野晴貴「非正規が33社に「一斉に賃上げ」を要求 「非正規春闘」の背景とは?」

今野晴貴「ABCマートでパート5千人の時給を6%「賃上げ」 「たった一人」のストライキから」

この記事を書いた人

坂倉昇平