毎日新聞 <不信任・問責案>首相決断迫られ 輿石氏党首会談認めず

毎日新聞 8月8日(水)
 
自民党が7日、野田佳彦首相が8日午前までに衆院解散を確約しなければ、内閣不信任、首相問責の両決議案を提出する方針を固めたことで、消費増税法案を軸とする3党合意は重大な危機に陥った。野田首相は両決議案の採決回避を目指し、自民党の谷垣禎一総裁との党首会談を検討しているが、会談が解散確約につながることを警戒する民主党の輿石東幹事長は反対しており、打開策は見当たらない。自民党は3党合意の破棄も辞さない構えで首相に「踏み絵」を突きつけており、首相は窮地に追いつめられている。【小山由宇、念佛明奈】
 
「官邸からいろんなシグナルがきている。官邸が解散の意向を明らかにすれば不信任は出す必要はない。したがって(自民党は)それをしばらく待つという話だった」
 
公明党の漆原良夫国対委員長は7日、自民党との幹事長・国対委員長会談の後、国会内で記者団にこう明かし、官邸側が自民党に党首会談を含めた打開策を打診していることを示唆した。
 
内閣不信任案は与党の反対多数で否決される見通しだ。しかし、野党が多数を占める参院で問責決議案が可決されれば参院審議はストップし、消費増税法案の採決もできなくなる。
 
このため首相は自民党が不信任、問責の両決議案の提出に踏み切る前に党首会談で事態を打開したい意向とみられる。首相が党首会談に乗り出せないのは、解散回避が最優先の輿石氏ら民主党執行部が歯止めをかけているためだ。
 
民主党内では敗北が必至とされる早期解散には反対する声が大勢を占めている。また、消費増税法案の衆院採決で反対した鳩山由紀夫元首相らが法案成立阻止を掲げており、首相が法案成立と引き換えに解散を確約すれば「離党ドミノ」の再燃も招きかねない。輿石氏は周囲に「党首会談は『解散しろ』と言われるだけだ」と強調。6日の役員会でも「絶対に動くな。ここが正念場だ」と自民党に妥協しない考えを強調した。
 
また、参院で法案採決に至れば、造反議員が出て、民主党が参院第1会派から転落する懸念がある。このため、輿石氏が採決を先送りしようとしているとの指摘もある。
 
事態がこじれた背景には、自公両党との3党合意をまとめて以降、首相が参院での可決・成立を楽観してきたことがある。岡田克也副総理や首相に近い藤井裕久税調会長が接触してきた自民党の長老議員らは、法案成立に協力すべきだとの立場。早期解散の実現と自らの総裁再選が絡む谷垣氏の状況や自民党の中堅・若手らの動向が首相に十分伝わっていなかった可能性が高い。
 
官邸内からは「再可決までいくしかない」(首相周辺)との声も出始めた。法案が参院に送られてから60日経過しても採決しない場合、憲法の規定で衆院は「参院は否決」とみなして再可決できる。衆院で3分の2以上の賛成が必要なため、自民党の協力が必要になるが、そこまで待てば「政局優先の自民党に世論の批判が集まっている可能性がある」(首相周辺)と期待する。
 
衆院で再可決ができるのは、衆院通過(6月26日)から60日を超える8月25日以降。それまで行き詰まり状態が続く可能性も出てきた。

 
◇自民、解散へ瀬戸際戦術
 
自民党は野田佳彦首相に衆院解散・総選挙を確約させるため、消費増税法案を巡る民主、公明両党との「3党合意」の破棄も辞さない瀬戸際戦術を仕掛けている。ただ、なりふり構わず衆院解散を求める政局最優先の姿勢には慎重論も根強い。党執行部は民主党が提案した消費増税法案の8日の参院採決を受け入れ、3党合意を守るポーズもみせるなど複雑な対応を余儀なくされている。
 
「3党合意は我々も政治生命を懸けて結んだが、勝負する時はしっかり勝負しないといけない。首相が十字架を背負って出てくるかどうかだ」
 
自民党の谷垣禎一総裁は7日の党役員会で、衆院解散の確約を迫る決意を示した。声を張り上げる総裁に、出席者から拍手が起こった。石原伸晃幹事長は役員会後、少数野党提出の不信任案などについて「野田内閣の信任も採決の欠席もできない。問題を解決できるのは首相だ」と述べ、首相に解散を確約するよう迫った。
 
自民党は消費増税法案成立への協力姿勢を一転させ、強硬路線にひた走っている。解散に応じようとしない首相への不満が自民党内で沸騰しているためで、谷垣氏は7日の役員会で「首相が13年度予算編成をやると言い出したのは、極めて不愉快だ」と首相への不信感をあらわにした。
 
05年の郵政選挙で自民党を大勝させた小泉純一郎元首相も後押しする。「野党が解散権を握っている政局なんてないんだ。こんなチャンスは珍しいのに何をやっているんだ」。小泉氏は7月28日、東京都内のホテルでの会合後、10分間にわたって同席した石原氏にまくしたてた。小泉氏は民間人を通じて、谷垣氏に「キャスチングボートを握っているのはお前だ」とも伝えた。
 
ただ、こうした強硬論には自民党内で異論も根強い。同党は10年参院選で10%への消費増税を掲げており、財政再建への取り組みは最優先課題の一つ。7日の役員会と総務会では「3党合意を破棄したら、相当な血が出る」と、世論の批判を懸念する声が上がった。
 
自民党は7日、「3党合意を進める姿勢を示し、世論の批判をかわす」(幹部)との狙いから、民主党が提案した8日の参院採決に一転して同意した。みんなの党の江田憲司幹事長は7日、自民党の対応について「極めて分かりにくく、小細工が過ぎる」と批判した。

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