使いつぶされる労働者 「心の病」県内で急増

高知新聞、2014年5月2日朝刊 社会面

 1日はメーデー。「働くルールの確立を」 「長時間労働やめろー」。高知市中心部でもそんなシュプレヒコールが上がった。県内の有効求人倍率が過去最高を記録する中、ようやく手にした職場では、いじめや嫌がらせ、残業代の不払いなどが横行している。「心の病」を抱え、休職や退職に追い込まれる人も後を絶たない。(真崎裕史)

 「思い出すと、今でも腹が立つんです」

 高知市の田中真美さん(64)=仮名=は6年前、市内のバス連行会社にパートの職を得た。担当は高速バスの社内清掃。トイレの汚物処理や窓ガラス拭きなど、1人で1日7〜10台をこなした。

 「仕事は朝5時半から午後4時半まで。契約書に就業時間は書いてなくて、タイムカードも無し。残業代もありませんでした」

 同僚からの嫌がらせも。毎晩のように電話がかかってきて、「あんたがやったら汚い」「ごみが残っちょった」…。夜中2時の電話もあった。体重は7?落ち、円形脱毛症になった。

 一昨年10月、我慢の限界が来た。職場で号泣。医師の診断は「うつ病」だった。

 息が詰まりそうで、居心地の悪い職場。そんな実態は、高知労働局に寄せられる相談内容からもうかがえる。

 13年度上期労働相談「いじめ・嫌がらせ」最多。

 同労働局によると、2013年度の上半期(4月〜9月)は「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が159件あった。これは前年比約24%の増加で、相談全体の最多となる約3割。10年度までトップだった解雇の2倍以上で、ここ数年急増している。

 高知市の橋下貴子さん(51)=仮名=も職場でつらい目に遭ったという。経営していた飲食店がつぶれ、10年秋、市内のドラッグストアで働き始めた。夕方から夜が中心のパート。レジ打ちを任される。

 失敗すると、20代後半の店長が「使えん」と一言。夏は炎天下、1人で草むしりをさせられた。「準社員になれる」との話もあり、ひたすら耐えた。7日連続の勤務は当たり前。店員12人のうち、正社員は店長を含む2人だけ。パートの多くは1カ月ほどで辞めていく。

 消費税増税前の今年3月、駆け込み需要で店は大混雑となった。レジ前の人の列が何時間も途切れない。「気が付けば、かがみ込んでレジの台をガンガン殴ってました」

 自分でも怖くなって病院に駆け込み、診察室で泣きわめいた。

 「真面目にやってることは、そんなに悪いことですか!」「働いている人を踏みつける。それが会社か!」

 診断は、やはり「うつ病」。勤め始めて3年半。時給は750円から1円も上がらなかった。橋下さんは真っ赤な目でこう訴えた。「いろいろ考えていると、『生きている価値がない』と思ってしまう。今でも『死ねば楽になる』って声が頭の中で聞こえて…」
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 企業に使いつぶされる労働者。長時間労働などで精神疾患にかかり、労災認定された人は12年度、過去最多の475人となった。そのうち、県内では2人が自ら命を絶っている。

安倍晋三首は「時間でなく成果で評価される働き方を」と強調し、労働時間の規制緩和や改正労働者派遣法の見直しなどを狙う。

 これらの動きに、関西大学名誉教授の森岡孝二さん(70)=企業社会論=は「雇用問題を成長戦略の中で議論すること自体がおかしい」と指摘し、こう警鐘を鳴らす。

 「日本の労働、雇用は既に行き詰まっている。もっと働け、というのはもっと死ね、ということ。このままでは、強いストレスによる精神疾患、過労死が一層深刻になり、雇用崩壊も進む。企業にとっても、社会にとってもマイナスだ」

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