過労で命絶った28歳 訴訟を経ず遺族と会社側が和解

自動ドア販売・施工会社の男性社員(当時28)が4年前に自ら命を絶ったのは、連続勤務や残業などでうつ病を発症したためとして、東大阪労働基準監督署(大阪府東大阪市)が労働災害(過労自死)と認定していたことがわかった。認定後、遺族は会社側に賠償責任を問う訴訟の準備に入ったが、会社側は遺族と交渉を重ね、再発防止策や解決金の支払いなどで今月、遺族と合意した。
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遺族側代理人で「自死遺族支援弁護団」(大阪市)事務局長の生越(おごし)照幸弁護士によると、訴訟を経ず企業が過労死・過労自死の責任を認めて謝罪、遺族側と再発防止などで合意した事例では、電通が社員だった高橋まつりさん(当時24)の遺族と合意を交わしたケースがあるが、異例という。
 亡くなったのは、自動ドア「NABCO」の販売・施工会社「ナブコドア」(大阪市西区)の社員だった木村大輔さん=大阪府四條畷市。入社6年目の2014年1月に死亡した。
 遺族は、木村さんが当時、大型商業施設改装の担当になり、他にも20件以上現場を抱える過重労働の状態だったと主張。東大阪労基署に労災認定を求めた。
 労基署は昨年10月、深夜勤務3回を含む12日間の連続勤務があった▽その後、30日間単位の時間外労働が計100時間以上に達した――などと認め、仕事が原因となってうつ病を発症した労災と認定した。
 ナブコドアは裁判外で早期和解を図りたい意向を遺族側に伝え、今年7月に社長らが仏前で謝罪。その後、会社は「(木村さんの死は)労働時間や業務の軽減を怠り、漫然と過重労働をさせた結果」と責任を認め、長時間労働防止や職場の支援態勢作りなどに取り組むことを盛り込んだ合意書を遺族側と交わし、和解した。
 ナブコドアは取材に「労災認定を重く受け止めている。長時間労働や業務負担について、会社として十分に把握しきれていなかった」と説明。現在は従業員を大幅に増やし、管理職への研修や労働時間を把握するためのシステム構築などに取り組んでいるという。
 森岡孝二・関西大名誉教授(企業社会論)は「裁判で会社と遺族が正面から争う展開になれば、遺族は二重の苦しみを負う。過労死問題への社会の視線が厳しさを増す中、今回の(ナブコドアの)対応は迅速な措置といえ、他企業への影響も大きい。企業が日頃から社内で徹底しておくべき内容だともいえる」と話す。(阪本輝昭、荻原千明)
会社と遺族側との合意書骨子

・木村大輔さんの死は会社が漫然と過重な労働に従事させた結果であり、会社の業務と安全配慮義務違反が原因だと認める
・遺族に悲しみと精神的苦痛を負わせたことについて謝罪する
・会社は社員の労働時間をタイムカードなどの客観的記録で正確・厳格に把握する。時間外労働は月60時間を超えないように努める
・職場の支援・協力態勢を整え、社員一人に過重な負担がかからないよう軽減措置をとる
・2022年まで年1回、大輔さんの父・孝夫さんに再発防止の取り組み状況を報告する
・遺族へ解決金を支払う

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