福島原発の元作業員が告白
「『鉛箱』による被ばく隠しは氷山の一角だ」。東京電力福島第1原子力発電所事故の緊急作業などに携わった元原発作業員が、はき捨てるように口にしました。作業現場での放射線被ばく線量を低くみせるために、下請け企業役員が指示した線量計を鉛箱で覆うという事件など、相次いで発覚する“被ばく線量隠しの闇”を追いました。 (山本眞直)
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(写真)東電福島原発事故での収束作業に従事する労働者に好評の日本共産党のポスター=7月19日、福島県浜通り
「自分の判断で被ばく線量隠しをやってきた」。東電福島第1原発事故の直後から同原発で緊急作業についていた伊藤隆さん(仮名、30代)は福島県内のカフェで、「被ばく隠しの日々」を告白しました。
一枚の記録があります。伊藤さんの緊急作業での被ばく記録です。作業日の合間に「休」の文字が目立ちます。高い被ばく線量が続き、線量を増やさないためのいわば作業の間引きです。
限度ギリギリ 緊急作業は、線量の高い現場が多く容赦ない被ばくの連続でした。開始早々から高線量に汚染された第1原発3号機の建屋での作業です。
事故直後の昨年3月24日、3号機タービン建屋地下で、放射能に汚染された水たまりにくるぶしまでつかってのケーブル敷設で作業員が大量被ばくした経緯があります。
伊藤さんたちは建屋の1階部分で汚染水を回収、バケツで大型容器にため、地下に投げ込む作業につきました。
防護服に全面マスクという完全防備でしたが、数時間の作業で伊藤さんは3ミリシーベルトを超える線量を被ばくしました。
その結果、5カ月間の緊急作業で被ばく線量は40・10ミリシーベルトにまで達しました。
「年間被ばく量は、50ミリシーベルトを超えてはならない」という国の放射線業務従事規則に照らせば限度ギリギリの被ばくレベルです。伊藤さんは会社や元請けに対し「これ以上は無理だ」と作業現場の変更を申告しました。しかし返ってくるのは「ともかく続けてくれ」。
伊藤さんに残されたのは退職か、「被ばく線量隠し」の二者択一でした。
伊藤さんの選択は後者です。数字のない作業日(表参照)は自ら線量計をはずして現場作業についた日です。手口は現場に行く途中、「道具を取ってくる」と原発内の自社倉庫にたちより、目立たないように線量計を外し、置いてくるのです。
その実数は緊急作業についた5カ月間のうち32回にのぼりました。5日に1日のペースです。
使い捨て構造 なぜ自ら線量(被ばく)隠しを―。伊藤さんは「被ばく線量隠しの闇」をこう告発しました。
「下請け企業は東電の要求にそってどれだけの作業員を現場に出すかで取引額が決まる。一方で被ばく線量の制限もある。会社は原発以外の技術や取引があれば高い線量を浴びた作業員はそっちに回す。原発中心の会社は作業員に転職という退職強要に走る。作業員は仕事を続けるために被ばく線量隠しを迫られる」
原発関連会社が多数立地する福島県いわき市。原発作業員の使い捨て問題を市議会で追及した日本共産党の渡辺博之市議に対し、東電はこう回答しました。
「雇用先の企業からは、原子力プラント関連以外の業務で働いていただくことにより、就業できなくなるというものではない、とお聞きしております」
線量計に鉛カバーを装着したり、線量計をつけずに作業していたことが発覚した元請けは、いずれも東電のグループ企業である「東京エネシス」。東電の発注者としての社会的責任を放棄した原発作業員の使い捨て構造そのものです。