東京新聞 働く14歳の命消えた 学校・市教委「職場体験」と容認

【東京新聞】 2012年8月20日

 わずか14歳の男子中学生が、真夏の工事現場で働き、事故に巻き込まれた。栃木県足利市立西中学校3年の石井誠人君はなぜ、現代日本では考えにくい状況で命を落としたのか。検証していくと、義務教育を投げ出し、労働基準法の認識も欠けた教育現場に行き当 たった。 (稲垣太郎)

 炎天下、中学生のように見える少年が黙々と作業をしていた。西中の学区から渡良瀬川を渡ってほどない群馬県太田市の堤防近く。石井君がアルバイトをしていた会社の作業所は空き缶などが入ったビニール袋が山のように積まれ、高い鉄板で囲まれていた。

 石井君もここで空き缶などの分別や圧縮などの作業をしていた。こうした作業も労基法では14歳の少年には禁止されているが、今月6日には、群馬県桐生市の中学校体育館改修工事に伴うがれき撤去作業の現場に出され、崩れてきた壁の下敷きになり、搬送先の病院で死亡した。

 伏線は5月下旬。同級生の男子生徒(15)の父親が、学校を休んで親戚の鮮魚店で働かせたいと求め、西中は了解した。授業を休んでのアルバイトが公然と認められれば、ほかに希望者が出てきてもおかしくない。

 実際には鮮魚店でなく、太田市のこの会社で働いていたことが分かったが、学校は学習活動の一環である「職場体験」として認めた。板橋文夫教頭は「卒業後に土木の職に就きたいという希望があり、学校での様子や学習意欲の状況を見て判断した」と説明する。

 6月22日に岩下利宏校長と担任が作業所に社長(45)を訪ね、「よろしくお願いします」と依頼までしていた。

 一方、石井君は6月下旬から土曜日にこの会社で働き始めた。夏休みに入ると、平日は毎日働きたいと学校に希望。卒業後に建設会社への就職希望もあったため、これも職場体験として認められた。板橋教頭は「机に座ってじっとしているより、体を動かして働きたいという希望が本人にあった」と話す。ただ、足利市教育委員会から報告を受けた文部科学省によると、学校側は、2人のアルバイトが本来の職場体験とは異なることを当初から認識していた。

 学校の対応からは、労働基準法に対する意識が感じられない。同級生が学校を休んで働くことを認めたのは義務教育の放棄に映る。板橋教頭は会社と「長年の信頼関係があった」と言い「若い人たちを受け入れて仕事をさせる面倒見の良い会社」と評した。

 学校を管理する立場の市教委も、平日働くことに指導もせず、仕事内容も確認しないで認めてしまった。

 会社も違法の認識があった。社長は8年ほど前から計約20人の中学生を日当5千円で雇ってきたと話し「親からも頼まれ、違法と知りながら義理人情で受け入れてしまった」と説明。石井君については「知らないうちに従業員が工事現場に出した」とずさんな管理を認めた。

 文科省の担当者は「学校、教育委員会とも労働基準法に関する認識が希薄だったために生徒が働くことを認めてしまい、亡くなった子どもが工事現場に行ってしまった」と指摘。同級生が学校を休んで働くことを学校、市教委とも認めたことには「職場体験という誤っ た認識で認めてしまった。学校は保護者に就学義務の履行を求めなければならなかったし、生徒には登校を促さなければならなかった」と批判する。

 西中が、教育機関としての責任を投げ出し、生徒のアルバイトを「職場体験」にすり替えて容認。市教委もチェックを怠り、会社も法を守らなかった果てに、将来のある子どもの命が犠牲になった。

<労働基準法> 労働に関する規制などを定めた法律。年少者が15歳に達した日から最初の3月31日が終わるまでの使用を原則として禁じている。

 主に非工業的な事業で健康と福祉に有害でなく、労働が軽易なものについては13歳以上、映画や演劇の仕事なら13歳未満の児童でも、勉強に差し支えないことを証明する校長の証明書などを添えて申請して労働基準監督署が許可すれば、修学時間外に使用するこ
とを例外的に認めている。

<職場体験> 生徒が事業所などの職場で働くことを通じ職業や実際の仕事について、体験したり働く人と接したりする学習活動。2008年度の学習指導要領の改定で、中学校では職場体験活動を重点的に推進することになり、10年度は公立中学校の97.1%で実施された。文部科学省によると、職場体験は学校の教育活動として実施するもので、生徒や保護者が個別に希望して認められるものではない。

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