パートや契約社員など雇用期間が定められている有期契約労働者について、雇用の安定を目的とした改正労働契約法が先の国会で成立し、来年4月に施行されることになった。5年を超えて働けば、無期限の雇用契約への転換が定められているが、5年以下での「雇い止め」が多いのが実態。改正法が安心して働ける雇用づくりに資するかどうか、不安の声も上がる。 (三浦耕喜)
「店の立ち上げから働いてきたのに、ちゃんとした理由を説明してほしい」。千葉市に住む20代の女性は今年4月、勤続4年以上の者は契約を更新しない、という会社からの通知にがくぜんとした。会社は池袋を本社に、全国にカフェを数百店展開する大手。女性は千葉にある店の新規オープンから3カ月の契約を更新し続け、足か け7年間勤めている。女性の抗議に、会社側は「うちに今いる数千人の有期契約者を無期にする体力はない」と答えたという。
今年3月に東京都内のバス会社から雇い止めされた杉並区の40代の男性の場合は、五年目の契約更新を迎えた昨年3月、「今回が最終更新」との文言が加えられた労働契約書に署名するよう求められた。「正社員に登用されれば別と書いてあるが、勤務に問題はないのに、採用試験に3度落とされた。始めから5年以内に打ち切るつもりだったとしか思えない」と話す。
JR東日本の契約社員「グリーンスタッフ」も1年契約の更新は最高4回までで、働けるのは最長5年だ。一部は正社員に採用されるが、試験に合格しなければ雇い止めだ。
厚生労働省の推計では、約5100万人の雇用者のうち、有期契約は2割を超える1200万人。そのうち勤続5年以上の雇用者は360万人だ。だが、この360万人は改正法の恩恵は受けない。勤続5年の計算は改正法が施行される予定の来年4月を起点に始まるからだ。2018年4月以降にならないとメリットはない。
また、無期契約への転換には、5年を超えた6年目の契約期間に労働者側が申し込むことが必要。1年契約を更新している場合は、実際に無期契約となるまでに6年間待たなければならない。
しかも、6カ月の空白期間があれば、勤続年数がゼロに戻る「クーリング」が認められた。5年以下で雇い止めにして、半年過ぎてから雇い直せば、無期契約にしなくても済む抜け穴となる。
さらに無期契約に転換しても、労働条件は同じでいいと定められている。契約が無期になっても、正社員になれるわけではなく、待遇改善につながる保証はない。
全国一般労働組合全国協議会の遠藤一郎副委員長は「有期の雇用を繰り返して正社員にはしないという全体の流れの中で、改正法がどう用いられるか。5年までなら有期でよいと定めることで、既に5年以下で使い回す弊害が現れている」と指摘する。
若年労働者からの相談を受けているNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表は「いじめや過剰な職務命令による退職強要が横行して、契約内容すら破られている。有期・無期の議論以前に、法律すら守られていないのが実態だ」と話している。