生活保護基準を検証してきた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会が18日に厚労省で開かれ、報告書を取りまとめました。60歳以上の単身・夫婦世帯以外の世帯では、現行の生活保護基準は最も所得の低い1割の層の消費水準より高いとしています。同時に、基準引き下げとなれば生活保護利用世帯や低所得世帯に影響することに言及し、「慎重に配慮」するよう求めました。
報告は、留意事項として、「とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある」と述べました。
検証では、収入の低い方から1割の低所得世帯(平均年収約120万円)の消費水準と生活保護基準が比較されました。報告書は、今回の検証方法について「一つの妥当な方法」と述べる一方、「唯一の手法ということでもない」と表明。今回の部会でも、別な検証方法を用いた場合、最低基準は現行の生活保護基準を上回る結果が示されたことに触れながら、「基準の検証手法を開発していくことが求められる」としました。
委員からは、引き下げに慎重さを求める発言が出ました。山田篤裕委員(慶応大学教授)は、生活保護基準が下がれば、低所得者の税金の減免制度や就学援助なども下がることになると指摘し、「最低賃金への影響を気にしている」と発言。「一般低所得世帯への波及を防止するよう対応を期待したい」と述べました。
部会長の駒村康平氏(慶応大学教授)も、生活扶助の引き下げになれば「さまざまな影響があるので、政府は考慮して見直しを(してほしい)。他制度にも重々考慮を」と述べました。
自公政権は、報告書を口実に、生活保護基準の引き下げを反映させた来年度予算案を1月末にも閣議決定する予定です。
<解説>
最低生活保障する検証方法を
今回の社会保障審議会部会の検証を受け、政府は低所得層の消費水準が下がっているので、それに比べて“高い”生活保護基準を下げる結論を導こうとしています。
しかし部会に提出された資料に示されているように、1980年代以降、所得の高い方から3割の世帯の収入が、全ての所得階層の年間総収入に占める割合を増やす一方、低所得世帯はその割合を減らしています。これは格差の拡大を示すもので、報告書も、低い方から1割の低所得層について「わずかな減少があっても、その影響は相対的に大きい」ものがあり「留意すべき」だと指摘しています。
低所得層の消費水準が下がっていることを理由に、生活保護基準が引き下げられれば、国民の最低生活保障はどんどん下がり続けます。
報告書は、今回の検証方法が「唯一の手法ということでもない」と認めています。
さらに「国際的な動向も踏まえた新たな最低基準」の検証方法があることに言及し、それを踏まえた新たな検証方法の「開発」を求めています。低所得者の消費水準と比較する「水準均衡方式」の限界を示しているといえます。憲法25条がうたう「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する基準を検証する方法こそ必要です。
今回の検証結果を基準に反映させることになれば、子どもの多い世帯の生活保護基準が引き下げられることになります。自民党は、選挙公約で「子供を産み育てやすい国」「小・中学生の子どものいる家庭への支援の推進」などを掲げました。基準引き下げは、子育て支援とはほど遠い結果となります。
同部会の委員からも慎重な取り扱いを求める意見が出たように、報告書をそのまま基準に反映させる必要はありません。自公政権が2007年に引き下げを検討したときは、世論で断念させました。生活保護引き下げ反対の世論を高め、自公政権を包囲すれば、引き下げを断念させることは可能です。(鎌塚由美)