共同通信 2013/03/16
流通や自動車などの大手で一時金増額やベースアップ(ベア)の回答が出て、明るさ
が見えた2013年春闘。安倍政権の賃上げ要請が 影響しており、労使交渉をリード
する連合はお株を奪われた形だ。「労組の粘り強い交渉の成果」とアピールするが“安
倍効果”の前に存在はかすみがちで、焦りと危機感を強めている。
▽後追い
「連合はここ数年、賃上げによるデフレ脱却を主張してきた。政権が同じ認識に立っ
たということだ」。13日の集中回答日に記者会見した連合の古賀伸明会長は、安倍政
権が連合の主張を「後追い」したと強調した。
政権の賃上げ要請をめぐる質問が出ると「賃金を含む労働条件交渉は、あくまで労使
が決定するものだ」と、いらだちものぞかせた。
セブン&アイ・ホールディングス、ローソンなど流通大手の賃上げがムードを一変さ
せた今春闘。実は連合も自動車、電機以外が主導する春闘を模索していた。
長年、春闘の相場形成を担ってきた自動車、電機大手は業績不振などの影響でベア要
求見送りが定着し、主導役を担うことが徐々に困難になっている。
連合は賃金改善が期待できる流通などで成果を勝ち取り、それを他の業種に波及させ
ていく戦略を昨春闘に明確にした。
▽横取り
今回はその流れに沿った展開になったが、労使交渉よりも、むしろ政権側の要請が注
目され「空中戦というか…。交渉の雰囲気が非常にややこしかった」(電機連合・有野
正治委員長)と戸惑う声も。
地道な交渉を積み重ねてきた労組を束ねる連合にとっては、功績を安倍政権に“横
取り”されたようにも映り、傘下の産業別労組幹部は「このままでは連合不要論が加速
してしまうかもしれない」と懸念する。
今月1日、経団連の米倉弘昌会長と会談して賃上げを要請した麻生太郎副総理兼財務
相は「この10年間、ずっと労働分配率が下がり、給料も下がった。組合員は『連合は
何をしているんだ』と怒らないといけない」と皮肉ってみせた。
13日には菅義偉官房長官が「報酬と雇用の増大がアベノミクスの目標の一つだ」と
「成果」に胸を張った。
連合は民主党の最大の支持基盤。昨年の衆院選で惨敗して野党に転落し、参院選で再
起を期す民主党にとって頼みの綱でもある。
労働界には「安倍政権は参院選を前に、連合の弱体化を狙っているのでは」との見方
も出ている。
▽衰退
衆院選では民主党が野党になっただけでなく、支援する大物議員が相次いで落選し、
連合の政治への影響力は大幅に低下した。
労組離れにも歯止めがかからない。昨年12月に厚生労働省が発表した全国の労組の
推定組織率は前年比0・2ポイント減の17・9%で、調査を始めて以来、過去最低を
記録。組合員数も6万8千人減の989万2千人に。「1000万連合」の目標を掲げ
る連合も、前年比7千人減の669万3千人に落ち込んだ。
課題とされる非正規労働者の組織化も順調には進んでいない。
連合関係者は「この状況が続くようなら連合の影響力がなくなり、労働運動そのもの
が衰退してしまう恐れがある」と嘆いた。