新管理職の“4月病”昇進うつ 増えた義務と責任1人で抱え込み

zakzak 2013/04/09

駿河台日本大学病院精神神経科の渡辺登教授

 イヤな職場でうつ病になるのはありがちな話だが、4月に昇進して喜びに包まれる中、うつ病に陥ってしまう人がいる。「昇進うつ」だ。環境の変化は身体に大きなストレスとなり、喜ぶべき状況もうつ病への引き金となる。回避するにはどうすればよいのか、専門医に話を聞いた。

 【社長就任でもうつ】

 もともとうつ病は、「責任感が強い」「きちょうめん」「仕事熱心」「頼まれごとをイヤといえない」など性格に関与しているとされる。上司から受けるストレスやプレッシャーに懸命に応えようとするあまり、心が押しつぶされるのは珍しいことではない。では、自分が上司の立場になった途端、「昇進うつ」になってしまうのは、どういうことなのか。

 企業の産業医も兼務し、さまざまなメンタルヘルスを手掛ける駿河台日本大学病院精神神経科の渡辺登教授が説明する。「部下の立場だったときには、相談できる同僚がいるなど、気晴らしによってうつ病を回避できたとしても、昇進によってその環境が一変することがあります。たとえば、営業部長から社長に抜擢(ばってき)された場合、部長時代の取引先とは異なる人々と仕事をしなければならないでしょう。果たすべき責任と義務は重くのしかかり、それをたった1人で抱え込むことで、社長就任後にうつ病になってしまう人もいるのです」

 【プロジェクトで回避】

 4月は、管理職への昇進や本社への栄転など環境が一変しやすい。せっかく得たポジションを守るために、これまで以上に力を発揮しようと無理を重ねれば、うつ病へと結びつく。とはいえ、サラリーマンは実績を上げなければならず、無理をするなといわれても現実には難しい。

 「昇進うつになりやすい人は、自分だけで何とかしようと頑張りすぎる傾向があります。それを回避するには、仕事上の問題を解決するためのプロジェクトを立ち上げ、部下などに責任と義務を分担することがひとつの方法といえます。他の人とも、責任と義務をシェアする方法を考えてみてください」(渡辺教授)

 新たなプロジェクトで職場の人々の知恵と力を借りる。それが1人で頑張りすぎるのを回避する秘策だ。

 【周囲の人も気づいて】

 昇進うつは、「この大役はキミにしかできない」など、たった1人の力に頼られた形で昇進した場合にも起こりやすいと言う。1人で何とかしなければと思えば思うほど、昇進うつに近づくものの、本人の自覚は乏しい。

 「うつ病の人は、メンタルな変化について、『気合が足りない』などと自身を責める傾向にあります。むしろ、食欲がない、食べ物の味がしない、眠れないなどの身体的な不調を感じやすい。周囲の人も、様子がおかしいなと思ったら、『最近、体調が悪いのでは?』などと言って、産業医や医療機関に相談するように促してください」(渡辺教授)

 早期の段階であれば改善しやすいが、昇進うつが悪化すると仕事を辞めざるを得ない事態にも陥る。長期休暇が取れないポジションに就いた人はなおさらだ。

 しかし、自分で早期発見・早期治療を受けることも容易ではない。特に単身赴任で家族と離れ離れに暮らしていると、健康状態を心配する人も身近にいないため、気がついたときにはひどいうつ病というケースも少なくないとか。

 「一番大切なのは、会社のため、みんなのためにと頑張りすぎないことです。少し肩の力を抜いて、『ときにはできないこともある』と考えましょう」と渡辺教授はアドバイスする。

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