過労社会<上> 労組も守ってくれない 過重な残業「見ないふり」

東京新聞 2013年6月3日
 
「すかいらーくの組合はもう労働組合として機能していない。会社のご用聞きだ」
 
外食大手「すかいらーく」の店長だった中島富雄さん=当時(48)=は二〇〇四年八月に過労死する直前、妻の晴香さん(57)に、こう漏らした。

 かつて労組幹部だった中島さんはサービス残業の改善を訴えたが、古巣の労組は冷たかった。失望し、外部の個人加盟ユニオンに相談。倒れたのは訴訟準備の最中だった。晴香さんは夫の遺志を継ぎ、ユニオンの支援を受けながら、会社に職場の改善を約束させた。

 中島さんの労災が労働基準監督署に認められた二カ月後の〇五年五月に発行された業界専門誌に晴香さんは目を疑った。すかいらーく労組の委員長がインタビューに答えていた。「店長は忙しさも半端ではありません。しかし、本当にできる店長は、その中でも休みが取れるのです」

 夫の過労死が自己責任だと言いたいのか。晴香さんは〇七年七月、「過重労働に見て見ぬふりをしてきた」として、労組にも過労死の責任があったことを認めるよう求め、武蔵野簡易裁判所に調停を申し立てた。

 労働基準法は一日の労働時間を八時間などと定める。ただ三六条は残業時間の上限について、労使間で協定(三六協定)を結んで労基署に届け出れば、残業させられるとしている。すかいらーく労組は晴香さんの訴えを否定し、協定書の開示さえ拒もうとした。協議は決裂し、調停は成立しなかった。
 
すかいらーく労組の山崎大輔事務局長は取材に「過重労働防止にはきちんと取り組んでいる」と反論する。
 
当時のすかいらーく社長は初代労組委員長。歴代委員長も後に会社幹部になった。晴香さんは憤る。「経営者の方しか向いていない労組なんて要らない」

 厚生労働省は通達でおおむね月八十時間を超える残業を過労死との因果関係が強い「過労死ライン」とし、長時間労働の抑制を指導している。しかし、大手百社に対する昨年七月の本紙調査では、七割の企業が八十時間以上の残業を容認。三六協定は労使合意が前提で、労組側は過重な残業を拒否できる建前だが、実際は防波堤の役割を果たしていない。
 
労組の総本山の「日本労働組合総連合会(連合)」。新谷信幸総合局長は「健全な労使関係がある企業は、三六協定の上限は高く設定していても、それとは別に規定を設け、長時間労働にならないようにしている」と説明。その上で、「そもそも八十時間を超える協定を、なぜ労基署は受理するのか」と批判の矛先を行政に向ける。
 
サービス残業や不当解雇など個別の労働紛争で、一一年度に全国の労働局に寄せられた相談は過去最多の二十五万件。一方、労組の組織率は20%を切っている。労使協調路線が趨勢(すうせい)となり、ストライキなどが減った上、労働者が抱える個々の問題に労組は関与せず、労組に加入する意義が薄れているとの指摘もある。
 
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」(東京)の〇七年の調査では、労組に期待しないと回答した労働者は47・5%。理由のトップは「会社と同じ対応しかできない」(36・8%)で、「(労組に相談すると)会社から不利益を受ける恐れがある」(20・1%)との回答もあった。

 労組問題に詳しい甲南大学の熊沢誠名誉教授は「一人のために労働者が連帯すれば職場は変わる。働き過ぎやメンタルなど個人の受難に寄り添うことが、労組の復権につながる」と訴える。
 

 安倍政権の「成長戦略」が月内にも取りまとめられる。「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指し、労働分野の規制緩和も視野に入れる。労働環境が急速に悪化する中、規制緩和で、働く人の健康や命を守るセーフティーネットは機能するのか。働く現場に迫る。 (中沢誠)
 
<労働組合> 憲法は、労働者が団結し、会社と団体交渉したり、行動(争議)したりする権利を保障している。国内では企業ごとに組織する企業別労働組合が主流。昨年6月末で、組合員約989万人のうち企業別組合の所属は約829万人。全労働者に占める組合員の割合は1949年の55.8%をピークに年々低下し、昨年は過去最低の17.9%。個別労働紛争の増加などで、近年は個人でも加入できる労働組合「ユニオン」が増えている。

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