「人命よりも企業?!」 過労がなくならない日本の歪んだ価値観

「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」

経済も活性化したフランスの「ブルムの実験」に学べ

河合 薫

日経ビジネス 2013年6月18日(火)

 今回は、「なんでニッポン人は、そんな働かなきゃならないのか?」ってことについて、考えてみようと思う。

 先月、国連の社会権規約委員会が日本審査の最終所見を発表し、長時間労働などが原因の過労死・過労自殺について、「立法措置を含む新たな対策を講じるように」と、異例の勧告を行った。

 同委員会は、「多くの労働者が長時間労働に従事していることと、過労死や精神的なハラスメント(嫌がらせ)による自殺が職場で発生し続けていることを懸念する」とし、長時間労働の防止を強化することや、労働時間の制限に従わない場合は制裁を科すよう求めたうえで、「必要な場合は、職場におけるあらゆるハラスメントの禁止・防止を目的とした立法、規制を講じるよう勧告する」としている。

 社会権規約は世界人権宣言に基づく条約で、守るべき労働条件に「休息、余暇、労働時間の合理的な制限」などを明記。日本を含む締約国160カ国には、取り組みを国連に報告する義務があるため、日本政府は何らかの改善措置を迫られることになる。

 政府はちゃんと、長時間労働がなくなる“措置”をやってくれるのだろうか? 
 長時間労働を強いている企業は、この勧告をどう受け止めたのだろうか?

 ううむ、何となく表向きの措置だけが取られて、長時間労働や過労死が改善されることはない。そんな鬱屈とした気分になってしまうのはなぜなのだろう。

改善されているとは言い難い過労を巡る状況

 KAROUSHI──。

 「日本において働き過ぎが原因で、心身ともに消耗して死に至ること」と定義されるこの言葉が、英語辞書の最高峰と言われている「オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー」に追加されたのは2002年、今から10年ほど前のことだ。

 数年前に比べると、過労死に関する記事も減り、小さな囲み記事程度の扱いになってしまっているが、登場回数が減ったからといって過労死が減っているわけではない。

 厚生労働省の統計によると、2011年度に脳や心臓の疾患などで死亡し、過労死として請求されたのは302件で、2003年の319件から改善されたとは言い難い(死亡者の請求数が記録されているのが2003年以降)。

 また、そのうち労災認定されたのは121件で、発症の直前6カ月間で過労死認定の基準となる月平均の時間外労働が80時間を超えたのは93件。長時間労働が課されている実態は、この数字からも明らかである。

 長時間労働は、平均化された数字の上では、確かに減ってはいる。

 政府目標として年間総実労働時間1800時間が掲げられた1988年と比べると、300時間ほど短くなり、1800時間前後で推移しているとされている(1980年代は2080時間程度)。しかし実際には、パート・アルバイトなど非正規社員の増加によるところが大きく、実態はとらえられていない。また、年齢、企業規模、職種によって、“長時間労働格差”なるものが広がっている。

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