増えるテレワーカー 実態はサービス残業の増加?

産経ニュース 2013.7.16

タブレット端末の進化や通信環境の向上などで在宅型テレワーカーが増加しているとみられる(三尾郁恵撮影)

時間と場所を選ばず、多様な人材の活用や仕事と家庭の両立などに寄与すると期待された、IT(情報技術)を活用したテレワーク。インターネット関連機器の発達で在宅型テレワーカー率は急増するが、企業の制度としての導入は伸び悩んでいる。「実質的なサービス残業が増えた」という声もあり、ワークライフバランスの向上には結びついていないようだ。(村島有紀)

◆常時接続で疲労感

東京都港区の外資系金融サービス業で働く男性会社員(46)は東日本大震災を機に、「出社できないリスクがある」と会社からパソコンを支給された。在宅でも通信環境が良ければ金融情報へのアクセスや社内の同僚や上司とのチャットも常時可能。「病気で出社できないときでも社内の状況が分かり、便利にはなった。ただ、休日も含め、即座に上司のチャットに反応しないと『仕事をしていない』と見なされる。『気が休まらない』と退職した同僚もいる」

国土交通省が毎年実施している「テレワーク人口実態調査」によると、平成22年から在宅型テレワーカー(週8時間以上、オフィス以外のIT利用環境で仕事をし、そのうち1分以上自宅で仕事をする人)が大幅に増加。22年に320万人だったのが23年は490万人、昨年は930万人と倍増している。

同省の担当者は「増えた理由は分からない」するが、増加要因として、パソコンなどの性能向上▽データ通信の高速化・通信エリアの拡大▽スマートフォン(高機能携帯電話)、タブレット端末の進化▽東日本大震災による交通網の混乱や節電のため、企業が在宅勤務を奨励−などが考えられる。

日本テレワーク協会(東京都千代田区)の専門相談員、高橋圭佑さんは「国交省の調査では、終日在宅勤務をしているかどうか(出社が免除されているか)が不明。持ち帰り残業がテレワーカーに該当しているという可能性も否定できない」と分析する

◆導入企業は減少

22〜24年の総務省の「通信利用動向調査」によると、従業員100人以上の企業でテレワークを制度として導入している企業は22年の12・1%から24年は11・5%に減少した。24年調査でも「導入していないし、具体的な導入予定もない」が最多の85・6%を占めた。

導入しない理由(複数回答)で多いのは、「テレワークに適した仕事がない」(72・7%)、「情報漏洩(ろうえい)が心配」(21%)、「導入するメリットがよく分からない」(17%)など。

障害者や女性、高齢者など多様な人材の活用を目指し、テレワーク普及事業を行うライフネス(渋谷区)の専務取締役、奥村正明さんは「情報漏洩などのテレワークの懸念事項は、システムや運用方法の改善で大半が解決できる。今は人材が確保できるので、必要性を感じていない企業が多い。しかし、将来の人口減少で労働力が不足したとき、会社で顔を合わせない社員は『信用できない』と見なす企業風土では変化に対応できない」とテレワークの必要性を力説する。

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【用語解説】テレワーク

企業の建物から離れた所にいながら、通信ネットワークの活用で、企業の建物内で勤務しているような作業環境にある勤務形態。社員の作業場所により、「在宅勤務」「モバイルワーク(営業などで外出中に携帯情報端末で作業する場合)」「サテライトオフィス(自社オフィス以外のオフィスで作業する場合)」などがある。6月に政府が閣議決定した「世界最先端IT 国家創造宣言」で、国は、テレワークは生産性の向上、女性や高齢者らの雇用促進などに貢献すると言及。平成32年にはテレワーク導入企業を昨年比の3倍、週1日以上、終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカーを全労働者の10%以上とする目標を掲げている。

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