「国家戦略特区」で経済再生 競争力会議、3大都市圏に創設

日本経済新聞 2013/4/18

 政府は17日、産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)を開き、首相主導で規制緩和や税制優遇に取り組む「国家戦略特区」を創設する方針を示した。東京・大阪・愛知の三大都市圏を中心に推進し、都市の国際競争力を高めて国内外のヒト・モノ・カネを呼び込み、経済再生の起爆剤にする狙いだ。金融緩和と財政出動に続く、アベノミクスの第三の矢である成長戦略の柱に据える。

 会議では安倍首相が「世界一ビジネスのしやすい事業環境を実現するための橋頭堡(きょうとうほ)として、特区制度に光をあてる」と表明した。竹中平蔵慶大教授ら民間議員が「アベノミクス戦略特区」の創設を提言。それを引き取る形で、新藤義孝総務相は政府が「国家戦略特区」を立ち上げ、首相がトップを務める「国家戦略特区諮問会議」が責任を持って推進すると述べた。

 具体策は5月に作業部会を立ち上げて詰める。竹中氏のアベノミクス戦略特区を踏まえた内容になる見通し。甘利明経済財政・再生相は会議終了後の記者会見で「認定する特区は3〜4カ所に絞り込む」と語った。

 アベノミクス戦略特区の柱は外資誘致と公共インフラの民間開放だ。外資の誘致策は(1)法人税の引き下げ(2)外国人医師の受け入れ(3)海外トップクラスの学校誘致(4)(カジノを含む)統合型リゾートの設置――が中心。都営交通の24時間運行もこうした利便性の向上策の一環だ。

 日本は人件費の高さや英語で生活しにくいことが障害となり、対内直接投資残高の国内総生産(GDP)比率は2011年末で3.7%と英国(51.5%)、米国(16.9%)、韓国(12.6%)に後れを取っている。

 外国人が働きやすい環境をつくり、外資系企業のアジア本部を招く。そこで新たな雇用が生まれ、消費を押し上げる構図を描く。技術者など有能な外国人の受け入れ枠を拡大し、日本の人材育成や技術水準の向上を狙う。

 有料道路や公立学校などの公共施設の運営を民間に任せる仕組みを普及し、民間企業の創意工夫で経営の改善をめざす。英国のブリストル空港では01年に民間企業に運営権を売却。新規路線の就航や商業スペースの拡充を進めて08年の利用者数は623万人と売却前の3倍に増えた。

 建物の容積率を緩和して都心の住居を増やし、職住接近を進めるような都市計画は現在の制度内でも対応できる見通し。ハローワーク(公共職業安定所)の地方移管は従来の特区制度で埼玉、佐賀両県が試行しており、民間への業務開放も含めて検討する方向だ。

 一方、さまざまな障害があって緩和できなかった規制が多いだけに、実現に向けた難題も多い。猪瀬直樹東京都知事は15日、年内にも都営バスの24時間運行を始める意向を表明したが、東京メトロは多額の累損を抱える都営地下鉄との一元化には慎重。複々線化を要する24時間運行にも時間がかかりそうだ。

 特に企業の要望が強い法人税率の引き下げなど税制の優遇策は、低迷している税収を一段と減らす方向に働くため、財務省との調整が難航するのは必至。また三大都市圏を中心に特区構想が進むと、都市との格差が一段と広がるとして地方の反発が広がる恐れもある。

 外国人医師の受け入れには医師法など、学校の民間運営には学校教育法の改正が必要となり、法律の壁も高い。カジノを解禁すれば地元からの反対運動も予想される。

 この日の会議では安倍首相が(1)最先端技術を活用した「インフラ長寿命化計画」の策定(2)自動運転車の公道走行の環境整備(3)総合科学技術会議による府省横断型プログラム創設(4)IT活用に向けた規制・制度改革のアクションプランの策定(5)公共データの民間開放のためのルールの整備――などを表明した。

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