(阿倍内閣成長戦略・雇用改革) 政労使協議、9月開始へ

共同通信 2013年08月14日

賃上げや女性活用策検討
  農業・雇用・医療で分科会
  成長戦略第2弾工程表

安倍政権が策定している成長戦略第2弾の工程表が14日分かった。政府と経済界、 労働側の「政労使協議」を9月中旬にも始め、年末にかけて企業の賃上げや女性の活用 策などを議論する。規制緩和が進まず「岩盤」とされる農業、雇用、医療の3分野は、 産業競争力会議の下に分科会を設けて集中的に議論し、年内に中間報告をまとめる。

消費税増税の最終判断が近づく中、賃上げや規制改革など経済活性化につながる施策にも積極的に取り組み、財政再建だけでなく景気回復も進める姿勢を示す狙い。

ただ、国による賃上げ要請に企業側が応じるかは不透明。規制改革も農業分野などで業界団体の抵抗は根強く、政権の実行力が問われている。

政労使協議は、経団連、経済同友会、日本商工会議所といった経済団体、連合など労働組合の代表、政府側は甘利明経済再生担当相ら関係閣僚が参加する見込み。

  安倍晋三首相はことし2月に経済団体との意見交換会で賃上げを要請。政労使協議の枠組みをつくる方針が6月にまとめた成長戦略に盛り込まれた。経済界は当初「賃上げ は労使間で決める」(経団連の米倉弘昌(よねくら・ひろまさ)会長)などと慎重姿勢だったが、政府の要請を受け、賃上げだけでなく働き方の多様化など幅広い議論をすることを条件に参加する方向となった。

成長戦略を議論する産業競争力会議は9月2日に議論を再開。「農業」「雇用・人材」「医療・介護」の三つの分科会を新設し、年末までに「中間整理」をまとめる。科学 技術やエネルギー分野で政策の進み具合を確認する分科会も設ける。

  10月には投資減税の具体案も含めた「成長戦略実行パッケージ」を策定。同月中旬に臨時国会が召集されると想定し、企業の事業再編を促す「産業競争力強化法案」や農 地の貸し借りを仲介する新機構を設立する「農地バンク法案」、国家戦略特区の設置法 案を提出する。各分野の議論を集約した成長戦略の全面改定版は、来年6月にまとめる方針だ。

期待つなぎ留める狙い

【解説】安倍政権が成長戦略第2弾に向けて政労使協議や規制改革の議論を急ぐ背景には、経済政策「アベノミクス」による円安株高に一服感が出ている中、矢継ぎ早に追加策を打ち出して市場や国民の期待感をつなぎ留めようとする思惑がうかがえる。

円安の影響で食品価格や電気代が上昇する一方、賃上げの動きは広がっていない。安 倍晋三首相が消費税増税の実施を決めた場合、企業や家庭の負担感が増し、政権への不 満も強まる可能性がある。「景気回復を全国津々浦々に実感していただきたい」と訴え る首相の姿からは、経済再生への強い姿勢を見せ続けなければ、高い支持率が低下しか ねないという焦りも漂う。

成長戦略第2弾の柱とする投資減税をめぐっては、減税規模拡大を求める経済産業省と抑制を図る財務省が対立し、着地点はまだ見えない。

財政が厳しい中、政府は規制緩和も組み合わせて経済活性化を目指すが、「岩盤」とされる医療や農業分野などに産業競争力会議がどこまで切り込めるかは未知数だ。

消費活性化の鍵を握る賃上げも、経済界はデフレ脱却による企業業績の回復が前提と の姿勢を崩していない。成長戦略を掛け声倒れで終わらせず、国民に恩恵が及ぶ形で実 現できるか。安倍政権は具体的な成果を求められている。

解雇ルール見直し議論
  農業の参入規制緩和も

共同通信 2013年08月14日

「残された課題にしっかり対応することが重要だ」。甘利明経済再生担当相は7月に再開した規制改革会議でこう強調した。政府が産業競争力会議の下に新設する分科会では、踏み込み不足と指摘されている農業、雇用、医療の3分野を集中的に議論する。

雇用の分科会では、金銭の支払いを条件に従業員の解雇を認める新ルールの導入が議題になりそうだ。産業競争力会議で民間議員が提案したが、国民の反発を招く恐れもあり、参院選前は議論が進まなかった。

安倍政権は労働規制の見直しが成長分野への人材の移動を促すとみており、9月に開く政労使の協議の場でもテーマになる可能性がある。

農業分野では、企業の参入規制をどこまで緩めるかが焦点。現行制度では株式会社は農地を直接取得できず、リース方式で借りている。経済界は農地所有を自由化するよう求めており、これまでの規制改革論議でも浮上したが、農業団体の抵抗は強く、最も実現が難しい緩和策のひとつとなっている。

分科会では、農地の貸し借りを仲介する新機構が有効に機能するかどうかもチェック する。政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」と連携して、規制緩和が進まない「岩盤」の切り崩しを目指す。

  保険診療と保険外診療の併用を認める「混合診療」拡大が最大のテーマとなりそうな のは医療の分科会。現在は高度な先進医療などで例外的に混合診療が認められているが、経済界には全面解禁を求める声が根強い。これに対し日本医師会は、患者の負担を増大させるとして反対姿勢を貫いている。

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