派遣法見直し案 弱い保護 さらに弱く

2013年11月24日 朝刊

 派遣切りされた労働者らが東京・日比谷公園で年を越した「年越し派遣村」が社会問題となったのは五年前の年末。不安定な立場で働く人が増え続ける中、今でさえ脆弱(ぜいじゃく)な労働者保護のルールを撤廃する動きが加速している。「また人生が翻弄(ほんろう)される」。光の見えない法改正論議に、派遣労働者の嘆きは大きい。 (小林由比)

 「そんなに文句があるなら辞めたらどうですか」。東京都内の同じ会社で十年以上働く派遣社員の女性(54)は数年前、上司からの嫌がらせを相談した派遣会社の担当者の言葉にがくぜんとした。顧客である派遣先の企業の方が大事なのだと思い知らされた。

 二人の子どもが幼いころに離婚。子育てしながら正社員に就くことは難しく、契約を三カ月ごとに更新して働き続けてきた。

 現行制度では、一つの業務に派遣社員を従事させられる上限は三年だ。例外として無期限なのが、二十六の専門業務。女性も、その一つの「事務用機器操作」として働く。それでも「誇りや自信が失われていく働き方」との思いは募る。正社員を目指して英語力を磨き、資格も多く取った。だが給料は今も十歳下の社員の半分。通勤手当や忌引休暇などの権利もない。「派遣が担うのは一時的、臨時的な仕事のはずで、長く雇いたければ正社員にすべきなのに…」

 派遣法改正のたたき台として八月に厚生労働省の有識者研究会が出した報告書の方向性は、女性の願いとは正反対だ。二十六業務を廃止しあらゆる業務で無期限に派遣社員を使えることを提言。一人が同じ職場で働ける期間を最長三年とする。

 これが現実になれば、企業は三年ごとに人を代えて派遣を使い続けることができるようになるが、女性は三年で別の職場に移らなくてはならない。労働契約法の改正で、有期契約社員が五年を超えて反復契約した場合、無期雇用に転換できることになったが、それもかなわなくなる。「正社員へのわずかな望みも完全に絶たれることになる」

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 派遣で日雇いの仕事をする千葉県の男性(34)の携帯電話に九月、日雇い派遣禁止の「例外」に当てはまるか申告するよう求めるメールが派遣会社から届いた。

 昨年十月に施行された「改正労働者派遣法」では、労働者保護の観点から、日雇い労働の原則禁止が打ち出された。しかし、六十歳以上や学生、年収五百万円以上の世帯の人などは例外となる。男性は派遣会社からのメールや電話で誘導され、同居の両親の収入を確認することもなく「同一生計者の年収が五百万円以上」と申告。証明書類も求められなかった。

 有識者研究会の報告を受け、同省の労働政策審議会では、年内に派遣法の見直し案をまとめるため議論している。日雇い原則廃止のルールについて使用者側委員は撤廃するよう主張。「企業が活躍しやすい国」を目指す政府のもと、使用者側の意向が反映される可能性が強い。

 事前の説明と違う仕事をさせられるなど多くの理不尽な目に遭ってきた男性は冷ややかに言う。「好きな時に好きなだけ使いたいっていうこと。弱い立場の人が増えるだけだ」

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