広がる年収差…役員報酬は高額化、従業員の年収増は慎重

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朝日デジタル 2015年7月26日

写真・図版:報酬トップの役員と従業員の年収差は広がる(省略)

 報酬を1億円以上もらう上場企業の役員は400人を超え、高額報酬を受けとる役員とその企業の従業員との年収の差は年々広がる。役員報酬は好業績を反映しやすいが、企業はコスト増につながる従業員の年収アップには慎重なためだ。役員の巨額報酬への批判もある米国並みに差が開く日本企業も、出てきそうだ。

報酬1億円以上の役員、400人超に

 今年3月期の報酬が初めて10億円台にのった日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、6月23日の株主総会で「役員報酬に相当な投資をしないと、競争力を保つのに必要な人材の採用や確保ができない」と理解を求めた。

 従業員の平均年収の約20倍にあたる2億円超の報酬を得た大手金融会社トップは「社員の給料も業績に連動している。役員の貢献に報いる仕組みも、企業の収益力を高めるために必要だ」と話す。

 人事コンサルティングのタワーズワトソンによると、日本、米国、英国の大手企業の最高経営責任者(CEO)の報酬を中央値で比べると、米国が11・5億円、英国は5・4億円。日本は1・2億円と低い。

 CEO報酬の内訳をみると、日本は86%を基本報酬と業績に連動する賞与で占めるが、米国は、自社株を割安で買える権利のストックオプションなど株式で報酬を受けとる比率が7割近くに達する。日本でも株式で報酬を支払う企業が増えており、東京商工リサーチは「報酬の高額化は今後も進むだろう」とみる。

 一方で、役員報酬の最高額でみた上位100社の従業員の平均年収は、1億円以上の役員報酬の開示が始まった10年3月期以来、初めて下がった。

 創業者や企業トップが多額の報酬をもらっていても社員の給料が低めの企業が上位に入り、平均を押し下げたためだ。新入社員の採用が活発となり、給料が少ない若手社員が増えたことも理由にあるという。

 企業全体で見ると、給料はボーナスが伸びて増える傾向にある。厚生労働省によると、14年度の正社員の平均年収は、30人以上の企業で536万円と前年度より1・4%増えた。ボーナスが4・2%増えたことが大きい。ただ、基本給に相当する所定内給与は伸び悩む。給料はいったん上げると下げにくいこともあり、各社とも大幅賃上げには慎重な姿勢を崩していない。

 山田昌弘・中央大教授(社会学)は「役員報酬が社員の給料より大きく伸びるのでは、社員の納得感が得にくい。役員になれない多くの部長や課長ら、中間管理職のやる気が低下する可能性もある」と指摘する。(多田敏男、編集委員・堀篭俊材)

■米国でも再び広がる格差、開示の動きも

 08年のリーマン・ショック後に「経営者報酬が高すぎる」と批判が強まった米国では、いま、企業トップの報酬と従業員の平均年収の差が再び開いている。

 米シンクタンク「経済政策研究所」によると、売上高で上位350社の米企業の最高経営責任者(CEO)が得た、賞与やストックオプションを含む2013年の平均年間報酬は、1520万ドル(約18億7千万円)だった。12年より約2・8%増え、従業員の平均年収との差は約300倍だった。

 1978年時点では約30倍が、ピークの00年に400倍近くになった。金融危機が深まった09年に報酬が落ち込んで約200倍となったが、景気回復にあわせて差が広がっている。

 米証券取引委員会は、報酬と従業員の給与格差のデータ開示を義務づける最終的なルールを、早ければ年内にも決める。16年分から開示が始まる見込みだ。

 「報酬格差を公表すれば、低水準の従業員の賃金がアップする」との主張がある一方、企業からは「コストや手間が増える」と慎重な意見も出ている。(ニューヨーク=畑中徹)

多田敏男、編集委員・堀篭俊材 ニューヨーク=畑中徹

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